総額1260億円、経済産業省が今年提案中の宇宙戦略基金とは?

 いよいよ10年間で1兆円規模とされる「宇宙戦略基金」の第1期の募集が2024年度に始まります。経済産業省は15日、国内事業者による小型衛星網の構築などに計1260億円を投じるといった宇宙戦略基金の活用案を取りまとめました。この記事では現在経済産業省が優先度高いと謳っている領域をまとめます。

目次

宇宙戦略基金で実施を検討中のテーマについて(案)

衛星コンステレーションビジネスの加速化

衛星コンステレーションといえばSpaceX社、といった状況です。

ここは内閣府の「令和6年度 小型SAR衛星コンステレーションの利用拡大に向けた実証」でも採択者が出ているように国の各機関から資金援助が発生しています。

株式会社QPS研究所 (福岡県福岡市:代表取締役社長CEO 大西 俊輔)

QPS社内閣府から15億3800万円で受注し、2024年3月1日に防衛省からも56億4900万円の受注を受けています。納期は2028年5月で36機体制の実現に向けて動いている状況です。

  1. 株式会社Synspective (東京都江東区:代表取締役CEO 新井 元行)

株式会社Synspectiveも防衛省からの受注は発生しているようですが上場しているQPS社ほど情報が公にはなっていません。ただしSynspective社の令和4年度の落札額はQPS社の3倍でした。ちなみにこの2社は、令和4年、令和5年にもあった内閣府の小型SAR衛星コンステレーションの利用拡大に向けた実証で資金を受け取っています。

衛星コンスティレーションといえばこの2社、といった状況になっていそうなので宇宙戦略基金もこの2社に割り当てられるのか注目です。なおこの基金は「大企業」も対象になるのが特徴です。

民間ロケットの輸送能力強化

2023年9月に 文部科学省 中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)宇宙分野の公募選定  で合計4社のロケット開発会社が採択されるなどこちらも多額の資金がすでに民間に提供されています。

    文部科学省   
     ○スタートアップ等への補助金
      (宇宙分野)    556億円
        ・宇宙輸送           350億円:民間ロケットの開発・実証
        ・スペースデブリ対策      206億円:スペースデブリ低減に必要な技術開発・実証
      (核融合分野)   65億円:核融合原型炉等に向けた核融合技術群の実証
      (防災分野)     40億円:災害対応を担う行政ニーズ等に応える地震・防災技術の実証

競合が少ない状況なので、今後も同じ会社に資金が集められ開発が加速するのでしょうか。

衛星データ利用ビジネスの促進

4月9日に出された各省からの提案一覧

文部科学省

・宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術(輸送):120億円

 熱可塑性の炭素繊維複合材料(CFRP)などの複合材料を使ったロケットのタンク、配管などの実現と、金属3Dプリンタによるエンジン部品の製造による機体の軽量化、高度化、低コスト化を目指す。3件を採択し1件あたりの支援額はテーマによって30億、40億円、50億円。支援形式は委託。2024~2028年度の5年間で開発し、2027年度ごろにプロトタイプ製造のステージゲート審査がある。

・将来輸送に向けた地上系基盤技術(輸送):155億円

 洋上着陸するロケット機体の捕獲および安全化と着陸に利用する無人ロケット回収船の基礎技術やロケット再使用、高頻度打上げが可能になる射場技術の獲得を目指す。2件を採択し1件あたりの支援額は50億円および105億円。支援形式は委託。2024~2028年度の5年間で開発し、2026年度末ごろに一部試作のステージゲート審査がある。

・高分解能・高頻度な光学衛星観測システム(衛星):280億円

 喪失した「だいち3号(ALOS-3)」に代わる分解能40cm級、観測幅50kmの小型光学地球観測衛星コンステレーションの実現を目指す。1件を採択し、支援額は280億円で衛星打上げ費用を含む。支援形式は補助。2024~2029年度半ばごろの最長5年間で開発し、2027年度に分解能40cm級光学衛星の軌道上実証を行うステージゲート審査あり。

・高出力レーザの宇宙適用による革新的衛星ライダー技術(衛星):25億円

 前述の光学衛星観測システムと対になる衛星搭載高度計LiDARの基礎技術の開発を目指す。衛星搭載可能な小型・高出力レーザーの実現を目指す。1件を採択し、支援額は25億円。支援形式は委託。2024~2030年度までの最長6年間で開発し、2027年度にレーザーシステム実現見通しに関するステージゲート審査あり。

・高精度衛星編隊飛行技術(衛星):45億円

 多数の衛星がお互いの位置を精密に制御しながら飛行する編隊飛行(フォーメーションフライング)の技術獲得を目指す。3件を採択し、1件あたりの支援額は15億円程度。支援形式は委託。2024~2030年度の最長7年間で開発し、2025~2027年度にフライト品開発・実証のステージゲート審査あり。

・国際競争力と自立・自在性を有する物資補給システムに係る技術(探査等:地球低軌道利用):155億円

 国際宇宙ステーション(ISS)退役後の商業宇宙ステーションへの物資輸送を可能にする自律的なランデブー・ドッキング技術の実現を目指す。2件を採択し、1件あたりの支援額は125および30億円。支援形式は補助。2024~2029年度の最長5年間で開発し、2026年度ごろにシステム仕様の設定、商業ステーション事業者からの契約確保によるステージゲート審査あり。

・低軌道自律飛行型モジュールシステム技術(探査等:地球低軌道利用):100億円

 地球低軌道で微小重力での実験環境として利用でき、フリーフライヤーとしても運用可能な自律飛行型のモジュールの開発を目指す。1件を採択し、支援額は100億円程度。支援形式は補助。2024~2029年度の最長5年間で開発し、2026年度ごろにシステム検討の完了、商業ステーション事業者からの契約確保によるステージゲート審査あり。

・低軌道汎用実験システム技術(探査等:地球低軌道利用):20億円

 地球低軌道で主にライフサイエンス系の実験設備開発を目指す。1件を採択し、支援額は20億円程度。支援形式は委託。2024~2029年度の最長5年間で開発し、2025年度末ごろにシステム検討の完了、ユーザー事業者の獲得によるステージゲート審査あり。

・月測位システム技術(探査等:月面開発):50億円

 月面で活動する際に位置や時刻情報を利用できるよう、月周回測位衛星(LNSS)の実現に向けた技術の獲得を目指す。1件を採択し、支援額は50億円程度。支援形式は委託。2024~2028年度の最長4年間で開発し、2026年度ごろに実証機を見据えた設計のステージゲート審査あり。

・再生型燃料電池システム(探査等:月面開発):230億円

 月面でエネルギー源として利用できる水を電気分解して得られる水素を用いた燃料電池の実現を目指す。2件を採択し、1件あたりの支援額は115億円。支援形式は委託。2024~2027年度の最長4年間で開発し、2025年度末ごろに水電解/燃料貯蔵/燃料電池の機能を組み合わせた再生型燃料電池システムの地上実証品の設計完了と製作への移行についてステージゲート審査あり。

・半永久電源システムに係る要素技術(探査等:月面開発):15億円

 月面で半永久的な熱源・電源として利用できるアメリシウムを利用したラジオアイソトープ電源システム(RPS)の開発を目指す。1件を採択し、支援額は15億円程度。支援形式は委託。2024~2028年度の最長4年間で熱源として利用できる半永久電源の熱構造モデルと熱電変換の要素技術を開発する。ステージゲート審査なし。

・大気突入・空力減速に係る低コスト要素技術(火星探査):100億円

 火星の大気に突入する際にパラシュートに代わる展開型エアロシェルを開発し、月や地球低軌道からの物資輸送にも利用できるシステムを目指す。1件を採択し、支援額は100億円。支援形式は委託。2024~2030年度の最長6年間で開発する。2026年度末ごろに20kg程度の機器を地球低軌道から帰還させる能力を持った展開型エアロシェルの開発、および実証機の設計完了見通しでステージゲート審査あり。

・SX研究開発拠点(分野共通):110億円

 非宇宙分野の研究者などを中核とした輸送、衛星、探査など各分野の研究開発拠点の実現を目指す。5件を採択し、1件あたりの支援額は22億円。支援形式は委託。2024~2032年度の最長8年間で開発し、2029年度ごろに成果創出や組織マネジメント、民間との連携などでステージゲート審査あり。

総務省案

・衛星量子暗号通信技術の開発・実証(衛星等):145億円

 衛星搭載用の量子暗号通信機器と300kg級小型衛星による2028年度打上げの宇宙実証、および可搬型地上局、衛星〜地上局間の1kbpsを超える量子鍵生成の技術確立を目指す。1件を採択し、支援額は145億円。支援形式は委託。2024~2029年度の最長5年間で開発し、2027年度ごろに小型衛星に搭載できる関連装置と地上局、宇宙実証に向けた周波数獲得によるステージゲート審査あり。

・衛星コンステレーション構築に必要な通信技術(光ルータ)の実装支援(衛星等):19億円

 衛星間光通信を可能にする10Gbps超のデータ伝送処理、および100Gbps端末にも対応する光ネットワークルータの実現を目指す。1件を採択し、支援額は19億円。支援形式は補助。2024~2027年度の最長3年間で開発し、ステージゲート審査は記載なし。

・月面の水資源探査技術(センシング技術)の開発・実証(探査等:月面探査):64億円

 10kg以下のテラヘルツ波センサシステムを搭載した100kg以下の超小型衛星を2026年度に打上げ、月周回軌道に投入し、月面の水・氷含有量の推定分布の探査を目指す。1件を採択し、支援額は64億円。支援形式は委託。2024~2028年度の最長4年間で開発し、2025年度にセンサを含む衛星のPFM開発でステージゲート審査あり。

・月-地球間通信システム開発・実証(FS)(探査等:月面探査):5億円

 4K、8Kの高画質映像伝送が可能な月周回有人拠点(ゲートウェイ)や月周回衛星を中継した月-地球間通信のフィージビリティ・スタディ(新規事業や新製品・サービス、プロジェクトなどが、実現可能かどうかを検証すること)を行う。1件を採択し、支援額は5億円。支援形式は委託。2024年度から1年間で開発し、ステージゲート審査は記載なし。

参照:
経済産業省 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/space_industry/002.html
宇宙戦略基金で実施を検討中のテーマについて https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/space_industry/pdf/002_04_00.pdf

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