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アルテミス計画をわかりやすく解説 — Artemis I〜IVの全体像・SLS・Orion・月面基地計画まで


アルテミス計画とは — 人類が再び月を目指す理由

アルテミス計画(Artemis Program)は、NASAが主導する有人月面探査プログラムだ。1972年のアポロ17号以来、半世紀以上ぶりに人類を月面に送り込むことを目指している。

アポロ計画との最大の違いは「行って帰るだけ」ではない点にある。アルテミス計画は月面に持続的な拠点を築き、将来の火星有人探査への足がかりとすることを目的としている。

計画の名前「アルテミス」は、ギリシャ神話の月の女神に由来する。アポロ(太陽の神)の双子の姉でもあり、アポロ計画の後継にふさわしい名前として選ばれた。


アルテミス計画の4つのミッション

Artemis I(2022年11月〜12月・完了)

Artemis Iは無人テストミッションだった。SLSロケットとOrion宇宙船の初飛行として、25日間の月周回飛行を成功させた。

主な成果は以下のとおり。

  • SLSロケットの初打ち上げに成功
  • Orion宇宙船が月を周回し、地球から約43万kmの距離に到達
  • 大気圏再突入時の耐熱シールドの性能を実証
  • 25.5日間のミッションを完遂

ただし、再突入時に耐熱シールドの一部が想定外の摩耗を起こすという課題も発見された。この問題はArtemis II以降の設計改良につながっている。

Artemis II(2026年・有人月周回)

Artemis IIは有人での月周回飛行ミッションだ。4名のクルーがOrion宇宙船に搭乗し、月を周回して地球に帰還する。月面着陸は行わない。

搭乗クルーは以下の4名。

  • リード・ワイズマン(船長)
  • ビクター・グローバー(パイロット)
  • クリスティーナ・コック(ミッションスペシャリスト)
  • ジェレミー・ハンセン(CSA・ミッションスペシャリスト)

カナダ宇宙庁(CSA)のハンセン飛行士が参加しており、アルテミス計画が国際協力プログラムであることを象徴している。

アルテミス計画の詳しいミッション内容はArtemis II完全ガイドでも解説している。

Artemis III(2027年以降・有人月面着陸)

Artemis IIIは人類が約55年ぶりに月面に立つ歴史的ミッションだ。当初は2025年の予定だったが、技術的課題により延期されている。

このミッションの特徴は、月面着陸にSpaceXのStarship HLS(Human Landing System)を使用する点だ。Orion宇宙船で月軌道まで行き、そこからStarshipに乗り換えて月面に降り立つ。

着陸地点は月の南極付近が予定されている。南極には永久影と呼ばれる太陽光が一切届かないクレーターがあり、そこに水の氷が存在することが確認されている。この水資源は将来の月面基地にとって極めて重要だ。

Artemis IV(2028年以降・Gateway建設)

Artemis IVでは、月周回軌道上にGatewayと呼ばれる小型宇宙ステーションの建設が始まる予定だった。しかし2025年、NASAはGateway計画の大幅な見直しを発表している。

Gatewayの当初の構想は以下のとおり。

  • 月周回軌道上の中継拠点
  • 各国の宇宙機関が共同で運用
  • 月面への中継基地として機能
  • 将来の火星ミッションの技術実証の場

予算制約や技術的課題により、計画の規模や時期が流動的な状況にある。


SLSロケット — 史上最強の打ち上げ機

SLS(Space Launch System)は、アルテミス計画の基幹ロケットだ。NASAが開発した史上最大・最強の打ち上げ機であり、Orion宇宙船を月軌道まで送り届ける役割を担う。

SLSの主なスペック

項目Block 1Block 2(将来型)
全高98m111m
推力3,992トン4,173トン
低軌道投入能力95トン130トン
月軌道投入能力27トン46トン

SLSのコアステージには、スペースシャトルで使用されたRS-25エンジンを4基搭載している。両側にはスペースシャトルの固体ロケットブースターを改良した5セグメント型SRBを装備する。

SLSの課題

SLSは性能面では優れているが、コストが大きな課題だ。1回の打ち上げ費用は約41億ドル(約6,000億円)と推定されており、SpaceXのFalcon 9(約6,700万ドル)と比較すると桁違いに高い。また、再使用ができない使い捨てロケットであるため、打ち上げ頻度にも限界がある。


Orion宇宙船 — 深宇宙用の有人カプセル

Orion(オリオン)は、アルテミス計画で宇宙飛行士を運ぶ有人宇宙船だ。地球低軌道を越えて月や将来的には火星まで到達できるよう設計されている。

Orionの主なスペック

  • 乗員定数: 最大4名
  • 居住空間: 約9立方メートル
  • ミッション期間: 最大21日間(単独)
  • 耐熱シールド: AVCOAT(直径5m、世界最大級)
  • サービスモジュール: ESA(欧州宇宙機関)が提供

サービスモジュールをESAが担当していることも、アルテミス計画の国際協力を示す重要な要素だ。日本のJAXAも月面探査車(ルナクルーザー)の開発でプログラムに参加している。


月面基地構想 — Artemis Base Camp

NASAは月面にArtemis Base Campと呼ばれる恒久的な拠点を築く構想を持っている。Artemis III以降のミッションで段階的に建設される計画だ。

Base Campの主な構成要素は以下のとおり。

  • 月面居住モジュール: 宇宙飛行士が長期間滞在できる居住施設
  • 与圧ローバー(ルナクルーザー): JAXAとトヨタが共同開発中の月面探査車
  • 電力システム: 太陽光パネルと原子力発電(Kilopower)
  • ISRU(その場資源利用)施設: 月面の水の氷から水や酸素、燃料を生成

月の南極付近に建設される予定で、永久影のクレーターに存在する水の氷を資源として活用する。1トンの月の水を地球から運ぶと数十億円かかるため、現地で水を調達できるかどうかは計画全体の成否を左右する。


アルテミス計画の国際パートナー

アルテミス計画はNASA単独のプロジェクトではない。**アルテミス合意(Artemis Accords)**と呼ばれる国際協定に基づき、多くの国が参加している。

2026年3月時点で、アルテミス合意に署名した国は47か国に上る。主な参加国と役割は以下のとおり。

国・機関主な貢献
アメリカ(NASA)SLS、Orion、全体統括
欧州(ESA)Orionサービスモジュール
日本(JAXA)与圧ローバー(ルナクルーザー)、Gateway居住棟
カナダ(CSA)Canadarm3(ロボットアーム)
イタリア(ASI)Gateway居住モジュール
オーストラリア(ASA)月面ローバー

日本はアルテミス合意に最初に署名した国の一つであり、宇宙飛行士の月面着陸の機会が期待されている。


アポロ計画との比較

アルテミス計画とアポロ計画は、どちらも人類の月探査を目的としているが、その性格は大きく異なる。

項目アポロ計画アルテミス計画
時代1961〜1972年2017年〜
目的冷戦下の国威発揚持続的な月面活動・火星準備
ミッション数17回段階的に拡大
参加国アメリカ単独47か国以上
着陸地点赤道付近南極付近
ロケットSaturn VSLS
民間参加限定的SpaceX等が中核的役割

最も大きな違いは民間企業の役割だ。アポロ計画では政府機関が全てを主導したが、アルテミス計画ではSpaceXが月面着陸船を、Blue Originが将来のミッションの着陸船を開発するなど、民間企業が中核的な役割を果たしている。


アルテミス計画の課題と展望

予算の制約

アルテミス計画の最大の課題は予算だ。SLSの1回の打ち上げに約41億ドルかかるため、年間の打ち上げ回数に限界がある。NASAの年間予算は約250億ドルだが、アルテミス計画だけで相当な割合を占める。

スケジュールの遅延

当初の計画から大幅に遅れている。Artemis IIIは2025年予定だったが2027年以降に延期され、Gatewayの計画も見直しが入っている。

技術的課題

Artemis Iで発見された耐熱シールドの問題、Starship HLSの開発進捗、月面での宇宙服(xEMU)の開発など、解決すべき技術的課題は多い。

それでも前進し続ける理由

課題は多いが、アルテミス計画は着実に前進している。Artemis Iの成功により、SLSとOrionの基本性能は実証された。47か国が参加する国際協力の枠組みも整っている。

月面の水資源を活用できれば、宇宙での活動コストを劇的に下げられる可能性がある。月は火星への中継基地としても重要だ。アルテミス計画は、人類の宇宙進出の次のステップとして、着実に歴史を刻んでいる。


まとめ

アルテミス計画の要点を整理する。

  • 目的: 月面に持続的な拠点を築き、火星探査への足がかりとする
  • Artemis I(完了): SLSとOrionの無人テスト飛行に成功
  • Artemis II(2026年): 4名のクルーによる有人月周回飛行
  • Artemis III(2027年以降): SpaceX Starshipを使った有人月面着陸
  • Artemis IV(2028年以降): Gateway建設開始(計画見直し中)
  • 国際協力: 47か国が参加、日本はルナクルーザーで貢献
  • 最大の違い: アポロは「行って帰る」、アルテミスは「住み続ける」

宇宙ビジネス全体の動向については宇宙ビジネス完全ガイドも参考にしてほしい。


参考としたサイト

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