10本の海底ケーブルが切断された
2022年以降、バルト海で海底通信ケーブルが相次いで切断される事件が発生しています。特に2024年11月から2025年1月の集中期には7本が被害を受けました。累計では10本以上のケーブルが損傷しています。
海底ケーブルは世界のインターネット通信の95%以上を担う基幹インフラです。その切断は、国家間の通信障害、金融取引の遅延、安全保障情報の断絶といった深刻な影響を引き起こし得ます。
NATOの対応: Baltic Sentry作戦
NATOは2025年にBaltic Sentry作戦を展開し、バルト海の海底インフラ周辺の船舶行動を監視する体制を構築しました。この作戦では、AIS(船舶自動識別装置)データとAI分析を組み合わせ、ケーブル敷設ルート周辺での不審な船舶行動(速度低下、旋回、停泊パターンの異常)を自動検知する仕組みが導入されています。
衛星データによる海洋インフラ防護
Windward CMIP — 海底ケーブル専用の監視プロダクト
イスラエルの海洋AI企業Windwardは、2025年2月に**CMIP(Critical Maritime Infrastructure Protection: 重要海洋インフラ防護)**製品を投入しました。海底ケーブル・パイプライン・洋上リグ(石油掘削施設)の周辺を航行する船舶の行動をAIで分析し、異常を検知する仕組みです。
WindwardはAIS+SAR(合成開口レーダー)+光学衛星画像+RF(無線周波数)検知の4種センサー統合プラットフォーム「RSI(Remote Sensing Intelligence)」を2025年11月にローンチしており、CMIPはこの技術基盤の上に構築されています。
HawkEye 360 — RF検知で「見えない船」を追跡
米国のHawkEye 360は、36基超のRF検知衛星を運用し、AISを切断した「ダーク船舶」であっても、航行レーダー等の電波を発する限り宇宙から位置を特定できます。2025年12月に米海軍IPMDA(インド太平洋海洋状況把握)契約を9,880万ドルで更新、2026年3月には欧州の国防省から電子戦契約7,500万ドルを獲得しました。
Unseenlabs — フランス発のRF検知
フランスのUnseenlabsは20基のBROシリーズ衛星を運用し、再訪時間1時間未満を目標としています。ESA(欧州宇宙機関)のCopernicus Contributing Missionsに選定されており、欧州の安全保障基盤に深く組み込まれています。次世代では現行の10倍大型の衛星を計画し、海洋から陸域・宇宙状況把握(SSA)にまで監視領域を拡張する方針を2026年に発表しました。
なぜ衛星が必要か
海底ケーブルの防護において衛星データが不可欠な理由は、以下の3点に集約されます。
- 広域性: 海底ケーブルのルートは数千kmに及び、沿岸レーダーではカバーしきれない
- AIS切断への対応: 妨害行為を行う船舶はAISを切断する可能性が高く、SAR衛星やRF検知衛星でなければ追跡できない
- 行動分析: AIによる過去の航行パターンとの比較で、通常とは異なる行動(速度低下、不審な旋回等)を自動検知できる
日本への含意
日本周辺でも、海底通信ケーブルは北米・アジア間の国際通信を担う重要インフラです。北海道〜本州間、日本〜米国間の太平洋横断ケーブルなど、切断された場合の影響は甚大です。
日本ではJAXAのALOS-2/4 SAR衛星データと海上保安庁の「海しる」を組み合わせた海洋監視体制がありますが、バルト海で実装されているようなAI×衛星データの自動異常検知システムの日本版は、まだ構築されていません。