(更新: ) 読了 約5分

ブラジルの宇宙開発: アルカンタラ射場の優位性と南米の宇宙産業


ブラジルの宇宙開発 — 知られざるポテンシャル

ブラジルは南米最大の宇宙開発国であり、赤道に近いアルカンタラ射場という地理的優位性を持つ。しかし、ロケット開発の挫折や予算不足により、そのポテンシャルは十分に発揮されていない。近年、国際協力と民間参入の拡大により、再び動き出しつつある。


アルカンタラ射場 — 世界最高の立地

赤道直下の利点

ブラジルのマラニョン州に位置するアルカンタラ射場(Centro de Lançamento de Alcântara: CLA)は、南緯2.3度と赤道にきわめて近い。赤道からの打ち上げは地球の自転速度を最大限に利用でき、同じロケットで約30%多いペイロードを静止軌道に投入できる。

ケネディ宇宙センター(北緯28.5度)やギアナ宇宙センター(北緯5.2度)と比較しても、アルカンタラの立地は物理的に最も有利だ。

米伯技術保障協定(TSA)

2019年に米伯間で技術保障協定(Technology Safeguards Agreement)が締結され、米国の技術を使用したロケット・衛星のアルカンタラからの打ち上げが可能になった。これにより、海外のロケット企業がアルカンタラを利用する道が開かれた。

商業利用の動き

複数の企業がアルカンタラからの商業打ち上げに関心を示している。韓国のInnospaceは飛行試験をアルカンタラで実施し、カナダのC6 Launchもアルカンタラの利用を検討している。


ブラジルの宇宙機関と組織

AEB(ブラジル宇宙庁)

AEB(Agência Espacial Brasileira)はブラジルの宇宙政策を策定する機関だ。予算は限られているが、国際協力を通じた宇宙活動を推進している。

INPE(国立宇宙研究所)

INPE(Instituto Nacional de Pesquisas Espaciais)はブラジルの宇宙研究の中核機関で、地球観測とアマゾン熱帯雨林の監視が最も重要な任務だ。

CBERS(中国ブラジル地球資源衛星)プログラムでは、中国との共同で地球観測衛星を開発・運用している。データは無料公開され、森林伐採のモニタリングに活用されている。

DCTA(航空宇宙技術総局)

軍の研究機関であるDCTAは、VLS(衛星打ち上げロケット)の開発を行ってきた。2003年にアルカンタラで発生した爆発事故で21名が犠牲となり、VLS計画は大きな打撃を受けた。現在は小型ロケットの研究に移行している。


ブラジルのロケット開発

VLS-1の挫折

VLS-1はブラジル独自の衛星打ち上げロケットとして開発されていたが、2003年の射場での爆発事故により計画は中断した。この事故はブラジルの宇宙開発史上最大の悲劇であり、ロケット開発の方向転換を余儀なくされた。

現在の取り組み

ブラジルは自国ロケットの再開発よりも、アルカンタラ射場を海外のロケット企業に開放するアプローチに軸足を移している。射場インフラの整備と国際的な利用促進が現在の重点施策だ。


南米の宇宙スタートアップ

Aldo Space(ブラジル)

ブラジルの小型ロケットスタートアップ。サブオービタルロケットの開発から始め、軌道ロケットへのステップアップを計画している。

Satellogic(アルゼンチン)

南米最大の宇宙スタートアップ。サブメートル級の光学地球観測衛星コンステレーションを構築し、2021年にNASDAQ上場を果たした。40機以上の衛星を運用している。

ブラジルの衛星通信

Telebrasが運用するSGDC(Geostationary Defense and Strategic Communications Satellite)は、ブラジル初の軍民両用静止衛星だ。ブロードバンドサービスと防衛通信を提供している。


アマゾン監視と地球観測

ブラジルの宇宙活動で最も社会的インパクトが大きいのが、アマゾン熱帯雨林の衛星監視だ。

INPEのDETER(Real-Time Deforestation Detection System)とPRODES(Annual Deforestation Monitoring Program)は、衛星画像を用いてリアルタイムで森林伐採を検出するシステムだ。LandsatやSentinel-2のデータに加え、CBERS衛星のデータも活用されている。

この監視システムにより、違法伐採の早期発見と法執行が可能になっている。衛星データが環境保護に直接貢献している代表例だ。


まとめ

ブラジルはアルカンタラ射場という世界最高の地理的優位性と、アマゾン監視に代表される地球観測の実績を持つ。ロケット自主開発の挫折はあったが、射場の国際開放と民間参入の促進により、新たな成長機会が生まれている。赤道直下の射場は、メガコンステレーション時代の打ち上げ需要を取り込む大きなポテンシャルを持っている。


あわせて読みたい

参考としたサイト

法人リサーチプラン — 1ヶ月無料トライアル

全記事のPDF化(月3本)・まとめレポートのダウンロード・法人マイページが1ヶ月無料で使えます。

無料トライアルを申し込む 戦略レポートの詳細

会員限定の記事を無料で読む

衛星データ・防衛・海洋・投資など、業界分析の深掘り記事が会員登録(無料)で全文読めます。

登録無料・メールアドレスのみ|登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします