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民間宇宙ステーション計画 2026年版 — Axiom・Orbital Reef・Starlab・天宮の全貌


ISSの退役と民間宇宙ステーション時代の幕開け

国際宇宙ステーション(ISS)は1998年の組み立て開始から25年以上にわたり運用されてきた。しかし、機体の老朽化が進んでおり、NASAは2030年頃にISSを退役させる計画だ。

ISSの退役後、地球低軌道(LEO)の有人活動をどう維持するか。NASAの答えは「民間に任せる」だ。NASAはCommercial LEO Destinations(CLD)プログラムを通じて、民間企業による宇宙ステーション開発を支援している。

ISSは年間約40億ドルの運用費がかかっている。NASAはこのコストを削減しつつ、民間ステーションからサービスを購入する形に移行したい考えだ。


主要な民間宇宙ステーション計画

1. Axiom Station(アクシオム・ステーション)

Axiom Space(テキサス州ヒューストン)は、民間宇宙ステーション開発で最も先行している企業だ。

計画概要

  • まずISSにAxiomモジュールを接続(2026年以降)
  • ISS退役時にモジュールを分離し、独立した宇宙ステーションとして運用
  • 段階的に拡張し、最終的には独立した商業宇宙ステーションに

モジュール構成

モジュール機能打ち上げ予定
AxH(Axiom Hub 1)指令・通信2026年以降
AxL(Axiom Lab)微小重力研究追って発表
AxP(Axiom Power & Thermal)電力供給追って発表
展望モジュール地球観測・教育追って発表

ビジネスモデル

  • NASAからの研究サービス購入(アンカーテナント)
  • 民間宇宙飛行士の滞在(1人あたり数千万ドル)
  • 企業の微小重力実験
  • 宇宙旅行者の受け入れ

Axiom Spaceは既にISS向けの民間宇宙飛行ミッション(Ax-1、Ax-2、Ax-3、Ax-4)を実施しており、商業宇宙ステーション運用のノウハウを蓄積している。

2. Orbital Reef(オービタル・リーフ)

Blue OriginSierra Spaceが共同で開発する民間宇宙ステーションだ。

計画概要

  • 「宇宙のビジネスパーク」をコンセプトに、複数の企業・研究機関が入居する複合施設
  • 最大10名の滞在が可能
  • 2020年代後半の運用開始を目指す

特徴

  • Blue OriginのNew Glennロケットで打ち上げ
  • Sierra SpaceのLIFE(Large Integrated Flexible Environment)ハビタットを採用(膨張式モジュール)
  • Boeing、Redwire、Genesis Engineeringなどがパートナー

膨張式モジュール LIFE

Sierra SpaceのLIFEハビタットは、打ち上げ時はコンパクトに折りたたまれ、軌道上で膨張して大きな居住空間を作る。従来の金属製モジュールより軽量で大容量の空間を確保できる。

Bigelow AerospaceのBEAM(2016年にISSに接続され実証済み)の技術を発展させたものだ。

3. Starlab(スターラボ)

Voyager SpaceAirbusが共同開発する宇宙ステーションだ。

計画概要

  • 単一モジュール構成で、1回の打ち上げで完成する効率的な設計
  • 4名の常駐クルー
  • 2028年の打ち上げを目標
  • SpaceXのStarshipで打ち上げる計画

特徴

  • George Washington Carver Science Park: 搭載される科学実験施設。複数の実験ラックを備える
  • Airbus(欧州最大の航空宇宙企業)の技術力を活用
  • NASAのCLDプログラムで資金を獲得

ビジネスモデル

  • NASAの研究利用
  • ESA(欧州宇宙機関)の利用
  • 民間企業の微小重力実験
  • 宇宙旅行

4. 中国天宮(てんきゅう)宇宙ステーション

**中国の天宮(Tiangong)**は、民間ではなく国家プロジェクトだが、ISS後の宇宙ステーション勢力図を考える上で外せない存在だ。

現在の構成

  • 天和(Tianhe)コアモジュール: 2021年打ち上げ
  • 問天(Wentian)実験モジュール: 2022年接続
  • 夢天(Mengtian)実験モジュール: 2022年接続

スペック比較

項目ISS天宮Axiom(最終形)
総重量約420トン約100トン未公表
居住空間約916立方メートル約110立方メートル未公表
常駐人数6〜7名3名(最大6名)最大8名(想定)
運用開始1998年2022年2020年代後半
退役予定2030年頃2032年以降未定

天宮はISSより小規模だが、中国独自の技術で建設・運用されている点が重要だ。中国はISSプログラムへの参加をアメリカ議会の決定(ウルフ条項)により制限されているため、独自の宇宙ステーションを構築した。

今後、天宮は拡張される予定であり、国際パートナーの受け入れも進めている。


民間宇宙ステーションのビジネスモデル

収益源の比較

収益源AxiomOrbital ReefStarlab
NASA研究利用メインメインメイン
民間研究(製薬等)積極的積極的積極的
宇宙旅行実績あり計画中計画中
衛星サービス計画中計画中限定的
映画・メディア実績あり計画中未定

微小重力実験の市場

民間宇宙ステーションの最大の収益源として期待されているのが微小重力環境での製造・研究だ。

  • 製薬: 微小重力下でのタンパク質結晶成長は、地上より高品質な結晶が得られる。新薬開発の効率化に貢献
  • 半導体: 微小重力下での結晶成長により、高品質な半導体材料の製造が可能
  • 光ファイバー: ZBLAN光ファイバーは微小重力下で製造すると性能が大幅に向上
  • バイオテクノロジー: 臓器チップ、幹細胞研究

ISSから民間ステーションへの移行課題

技術的課題

  • 信頼性: ISSは25年以上の運用実績があるが、新しいステーションはゼロから信頼性を構築する必要がある
  • 生命維持システム: 空気の再生、水のリサイクル、温度制御など、生命維持に関わるシステムの確実な動作
  • デブリ防護: 微小デブリからの防護。デブリ問題についてはスペースデブリの問題と対策も参照

ビジネス的課題

  • 需要の不確実性: 微小重力実験や宇宙旅行の需要が予測通りに成長するかは未知数
  • コスト: 宇宙ステーションの建設・運用コストは膨大で、民間企業の収益で賄えるかが問われる
  • NASAへの依存: 初期はNASAがアンカーテナントとなるが、NASAの予算は政治的影響を受けやすい

スケジュールリスク

いずれのプロジェクトもスケジュールの遅延リスクがある。ISSの退役が2030年に予定されている一方、民間ステーションの運用開始が遅れれば、LEOにおける有人活動の空白期間が生じる可能性がある。

NASAはこのリスクを最小化するため、ISSの運用延長の選択肢も残している。


日本の関わり

日本はISSに「きぼう」実験棟を提供してきた実績がある。民間宇宙ステーション時代においても、以下の形で関わることが期待されている。

  • JAXA: 民間ステーションでの実験利用、宇宙飛行士の派遣
  • 日本企業: 微小重力実験装置の提供、ライフサイエンス研究
  • Axiomとの協力: JAXAはAxiom Spaceとの協力を検討中

宇宙ビジネス全体の動向は宇宙ビジネス完全ガイドも参照してほしい。


まとめ

  • ISSは2030年頃に退役予定。民間宇宙ステーションへの移行が進む
  • Axiom Space: ISSにモジュールを接続→独立。最も先行
  • Orbital Reef: Blue Origin + Sierra Space。膨張式モジュールが特徴
  • Starlab: Voyager + Airbus。1回の打ち上げで完成する効率設計
  • 天宮: 中国が独自に運用中。拡張と国際化を計画
  • 民間ステーションの収益源はNASAの研究利用、微小重力実験、宇宙旅行
  • ISSと民間ステーションの間に空白期間が生じるリスクがある

参考としたサイト

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