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海運大手のデジタル戦略比較(2026年版)— Maersk・CMA CGM・MSCの衛星・AI活用


海運デジタル化の加速

海運業界はかつてないペースでデジタル化を推進しています。LEO衛星通信(Starlink/OneWeb)のコスト低下が「船陸間のリアルタイムDX」の前提条件を整え、AI・IoT・デジタルツインの導入が加速しています。

本記事では、世界の主要海運会社6社の衛星技術・デジタル戦略を比較し、業界の現在地を整理します。

主要6社の衛星・デジタル技術活用

企業衛星・デジタル技術の活用内容
MaerskデンマークAIプラットフォーム「Star Connect」で25億データポイント/日をリアルタイム処理。燃料消費予測・航海中の速度・コース最適化。Starlink 330隻超導入予定(2023年10月発表)。Inmarsatもアップグレード。IoTコネクティビティを全船で強化中(2025年5月)、2026年Q1展開完了目標
MSCスイス世界初の900隻運航を達成(コンテナ船)。132隻の新造発注中。MSC Cruisesを含め高スループット衛星(HTS)による船上ブロードバンドをMarlink/Intelsat経由で提供
CMA CGMフランスEutelsat OneWeb LEOを300隻超に展開(2026年2月発表、9ヶ月で完了予定)。Marlink XChange NextGenで既存GEO/LEO/LTEを自動最適選択。IoTコンテナ基盤・サイバーセキュリティ・脱炭素をデジタルインフラと連携
NYK日本Starlink 100隻超(2024年度末計画)。JAXA宇宙戦略基金に海運初採択(2025年4月、ロケット洋上回収5技術)。ClassNK AiP取得(世界初の宇宙関連船級承認)。USVスタートアップOceanic Constellationsに出資
DANAOSギリシャEUのEO4EU枠組みでCopernicus海洋データと自社テレメトリを統合し、燃費・航路最適化に衛星地球観測データを活用する実証に参画
CostamareギリシャNavarino(衛星通信プロバイダ)と組んでStarlink LEOのトライアルを実施(コンテナ船70隻+ばら積み船45隻を運航)。船上IoT・クルー向け高速通信を検証

Maersk:AIプラットフォーム「Star Connect」

Maerskのデジタル戦略で最も注目すべきは、AIプラットフォーム「Star Connect」です。Fleet Energy Efficiencyプラットフォームとして、1日あたり25億以上のIoTデータポイントをリアルタイム処理し、航海中の燃料消費予測と速度・コース調整を自動化しています。

2025年5月にはIoTコネクティビティの全船アップグレードを発表しており、2026年第1四半期の展開完了を目標としています。Starlinkの高帯域通信がこのプラットフォームの前提条件であり、「通信+IoT+AI」の三位一体でフリートワイドのデジタルツインに近い運用を実現しつつあります。

出典: Maersk — Smart Shipping: IoT connectivity upgrade

CMA CGM:OneWeb LEOの全船展開

CMA CGMは2026年2月、Eutelsat/Marlink との提携でOneWeb LEO通信を300隻超に展開すると発表しました。StarlinkではなくOneWebを選択した理由のひとつは、OneWebの近極軌道(傾斜角86.4度)による北極圏を含む極域カバレッジです。

Marlink XChange NextGenプラットフォームにより、GEO/LEO/LTE回線が自動最適選択され、サイバーセキュリティ、産業IoTデータ収集、クラウドアクセスが船上で統合的に提供されます。リアルタイムのルート・速度・燃料消費の最適化がデジタルインフラと脱炭素目標に直結する設計です。

出典: CMA CGM — OneWeb LEO展開

NYK:宇宙輸送への先行投資

日本郵船(NYK)の宇宙事業は、他の大手海運会社とは異なるアプローチを取っています。2025年4月にJAXA宇宙戦略基金に海運会社として初めて採択され、再使用型ロケットの洋上回収に関わる5技術(機体捕獲・安全化・着陸甲板・遠隔運用・ガイドライン整備)を三菱重工と共同開発しています。

2025年7月にはClassNK(日本海事協会)から**世界初の宇宙関連システムへのAiP(基本設計承認)**を取得。さらに2026年2月にはUSVスタートアップOceanic Constellations(鎌倉拠点、Series B約20億円)に出資し、「データ収集インフラの構築者」としての一歩も踏み出しています。

ギリシャ系船社の実証参画

大手コンテナ船社のDANAOSは、EUのEO4EU(Earth Observation for the EU)枠組みでCopernicus衛星データを活用した実証に参画しています。自社テレメトリと衛星地球観測データを統合し、燃費最適化・航路最適化を検証する取り組みです。欧州の公的衛星データ基盤を商用海運に直接適用する先行例として注目されます。

CostamarreはNavarino(衛星通信プロバイダ)との提携でStarlink LEOのトライアルを実施。コンテナ船70隻+ばら積み船45隻の運航実態に即した検証を行っています。

まとめ:3つのアプローチ

世界の海運大手のデジタル戦略は、大きく3つのアプローチに分かれつつあります。

  1. 自社プラットフォーム構築型(Maersk): 社内にAI/IoTプラットフォームを構築し、全船のデジタルツイン化を目指す
  2. 通信パートナー活用型(CMA CGM、Costamare): LEO通信プロバイダとの提携で高帯域通信を確保し、IoT基盤として活用
  3. 宇宙事業参入型(NYK): 衛星データの「利用」だけでなく、宇宙輸送インフラ(ロケット回収)やデータ収集インフラ(USV)に直接投資

どのアプローチが正解かはまだ確定していませんが、「衛星通信の導入」と「データプラットフォームの構築」を並行して進めている点は全社に共通しています。


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