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H3ロケットの現在地 — 8号機失敗の原因、復帰見通し、日本の宇宙輸送の課題


H3ロケット — 全打ち上げ実績

H3は三菱重工業(MHI)が製造し、JAXAが開発した日本の主力ロケット。2023年の初号機失敗から再起し、2024-2025年に5機連続成功を達成したが、2025年12月の8号機で再び失敗した。

号機日付形態ペイロード結果
1号機2023年3月H3-22SALOS-3(だいち3号)失敗 — LE-5B-3着火せず
2号機2024年2月H3-22SVEP-4(性能確認用)成功 — 初の軌道投入
3号機2024年7月H3-22SALOS-4(だいち4号)成功
4号機2024年11月H3-24Lきらめき3号(防衛通信)成功 — 初のGTO投入
5号機2025年2月H3-24Lみちびき6号機成功
7号機2025年10月H3-24WHTV-X1(新型補給機)成功 — 初のワイドフェアリング
8号機2025年12月H3-24Lみちびき5号機失敗 — PSS剥離で衛星喪失
6号機延期中H3-30ダミー(30形態試験)燃焼試験で異常

通算成績: 8機中6機成功(成功率75%)。失敗2機はいずれも第2段の問題。

8号機の失敗 — 何が起きたか

2025年12月22日、みちびき5号機(約4.7トン)を搭載したH3 8号機が種子島から打ち上げられた。第1段は正常に飛行したが、第2段で異常が発生。

時系列

  1. 第2段LE-5B-3エンジン第1回燃焼中に水素タンク圧力が低下
  2. 第1回燃焼停止が予定より27秒遅延
  3. 第2回着火は15秒遅延し、着火後ほぼ即座に停止
  4. 衛星は109km×441kmの低軌道に取り残され、数日以内に大気圏再突入で喪失

原因: PSS(衛星搭載アダプタ)の剥離

2026年2月25日のJAXA調査報告で最有力原因が判明。

段階何が起きたか
製造時PSSのCFRPスキンとアルミハニカムコア間に、製造段階から想定を超える剥離が存在
真空環境飛行中の真空で内部気圧との差により剥離が拡大
フェアリング分離分離衝撃でPSSが座屈・全周破壊
結果4.7トンの衛星がロケットから脱落し、第2段エンジンの配管等を損傷

根本原因: 旧H-IIAではボルト固定していたスプライス部を、H3ではコスト削減のため接着方式に変更したことが問題の起点。製造済みPSS 5台中4台で同様の剥離が確認された。

出典: Impress Watch — H3 8号機最有力原因 / SpaceNews — H3 upper stage anomaly

2026年の見通し — 打ち上げ停止の影響

8号機の失敗により、H3の打ち上げは全て停止中。

ミッション当初予定現状
9号機(みちびき7号機)2026年2月延期 — 2026年度以降
6号機(30形態試験)2025年度内延期 — 燃焼試験で別の異常発見
MMX(火星衛星探査)2026年秋〜冬影響懸念 — 火星ウィンドウは2年に1回。延期すると2028年度

MMX(Martian Moons eXploration)は火星の衛星フォボスからサンプルを持ち帰る日本独自のミッションで、H3 8号機の失敗が直接影響する可能性がある。

H3ロケットの仕様

形態LE-9SRB-3LEO能力GTO能力用途
H3-303基0本~3,000kg最低コスト形態
H3-222基2本~6,500kgLEO中型衛星
H3-242基4本~6,500kg~6,500kgGTO大型衛星

打ち上げ価格は**約50億円($50M)**を目標としており、Falcon 9(約$67M)より安く、Ariane 6($80M〜$120M)の半額以下。ただし完全使い捨てのため、打ち上げ頻度ではSpaceXに大きく劣る。

イプシロンS — 2回爆発で計画見直し

固体燃料小型ロケット「イプシロンS」は、2023年7月と2024年11月の2回の地上燃焼試験でいずれも爆発。2026年2月にJAXAは抜本的な方針転換を発表。

  • 問題のE-21モータを断念
  • 2段目を旧設計ベースの**「M-35a」**に変更
  • この暫定版を**「イプシロンS Block1」**として先行運用
  • 2026年度内の実証機打ち上げを目指す

出典: sorae — イプシロンS計画見直し

Space One Kairos — 3連続失敗

民間小型ロケット「Kairos」は3回連続で失敗。

飛行日付結果
1号機2024年3月離床5秒後、飛行中断
2号機2024年12月飛行中に爆発
3号機2026年3月5日離床約69秒後、飛行中断。ペイロード喪失

3回連続失敗で、日本は民間軌道打ち上げ能力を持たない状態が続いている。

出典: SpaceNews — Kairos 3rd failure

IST ZERO — 2027年初打ち上げへ

インターステラテクノロジズの「ZERO」は日本初の民間液体燃料ロケット。

項目仕様
全長32m
燃料メタロックス(液体バイオメタン+液体酸素)
LEO能力800kg
射場北海道スペースポート(大樹町)
初打ち上げ2027年(当初2025年から延期)
資金調達Series F 201億円(国内未上場最大)
顧客初号機に5件、合計7件の打上げ契約

出典: SpaceNews — IST $62M調達

まとめ — 課題と期待

課題

2026年3月時点で、日本の宇宙輸送は厳しい局面にある。

ロケット状況
H38号機失敗で全機停止中
イプシロンS2回爆発で計画見直し
Kairos3連続失敗
ZERO2027年初打ち上げ予定(開発段階)

H3 8号機の根本原因が「コスト削減のための設計変更」にあった点は、コスト削減と品質確保の両立という宇宙輸送の根本的課題を浮き彫りにしている。

期待 — 復帰に向けた前進

厳しい局面にあるが、明るい材料は多い。

H3は着実に前進している。

  • 2026年3月15日、30形態(H3-30)の第2回燃焼試験が成功。LE-9エンジン3基が約50秒間トラブルなく稼働した。2025年7月の第1回試験で判明したタンク圧力不足を対策し、計画通りにデータ取得を完了
  • 8号機失敗の原因はエンジンではなく構造部分に限定されている。第1段のLE-9エンジン・推進系には異常が見つかっておらず、エンジン自体の信頼性は損なわれていない
  • 海外商業顧客2社を確保。ビアサット(旧インマルサット、2018年契約)に加え、2024年にはユーテルサット(フランス)と2027年以降の複数回打ち上げで合意。国際的な信頼を獲得している
  • $50Mの価格競争力はFalcon 9($67M)より安く、Ariane 6($80M〜$120M)の半額以下。部品の9割を民生車載部品で調達し、3Dプリンターも活用してコストを実現
  • スロットリング技術を3号機で実証済み。エンジン推力を100%から66%に制御する技術で、30形態の確立に必要な技術基盤が整っている
  • 開発プロジェクトマネージャーが「国際競争力はある」と明言。H-IIA時代の約98%の成功率の実績をベースに、H3は「運用しながら技術を進化させる」方針で進んでいる

民間ロケットも着実に成長。

  • IST ZEROは7件の打上げ契約を確保。トヨタとの戦略的提携や201億円の調達で開発基盤は盤石。2027年に成功すれば日本初の民間軌道ロケットとなる
  • 宇宙戦略基金が民間ロケット4社に最大140億円/社の支援を決定。失敗を前提とした公的資金投入は日本初の試み
  • 北海道スペースポートの整備が進行中で、射場インフラの拡充が打ち上げ頻度の向上に直結する
  • HTV-X1の成功は「補給サービス」から「軌道上利用サービス」への事業拡大の足がかり

日本の宇宙輸送は「谷間」にいるが、H3の30形態燃焼試験成功、海外2社の商業受注、民間ロケットの台頭を考えれば、この先数年で大きく景色が変わる可能性がある。

出典: JAXA — 第2回CFT結果(2026年3月15日) / JBpress — 開発プロマネ「国際競争力はある」 / 日経新聞 — ユーテルサット合意


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