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海洋監視衛星: 違法漁業・海面上昇・海洋汚染を宇宙から見守る


なぜ衛星で海を監視するのか

地球表面の約71%を占める海洋は、人類の食料・エネルギー・気候・物流に不可欠な存在だ。しかし、その広大さゆえに地上からの監視は困難であり、違法漁業、海洋汚染、気候変動の影響などの問題が十分に把握されていない。

衛星は、広域かつ定期的に海洋を観測できる唯一のツールだ。光学衛星、SAR衛星、高度計衛星、AIS受信衛星などの組み合わせにより、海洋の「見える化」が急速に進んでいる。


違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)の追跡

問題の規模

IUU漁業は年間1,100〜2,600万トンの魚を違法に捕獲しており、その被害額は100〜235億ドルと推定されている。特に西アフリカ、東南アジア、南太平洋の沿岸国が深刻な被害を受けている。

IUU漁業は乱獲による水産資源の枯渇だけでなく、強制労働や人身売買とも結びついており、国際的な安全保障問題でもある。

衛星によるIUU漁業の検出

AIS(船舶自動識別装置)衛星: 全ての大型船舶はAIS信号を発信する義務がある。LEO衛星でAIS信号を受信し、船舶の位置・速度・航路を追跡できる。しかし、IUU漁船はAISを故意にオフにすることが多い。

SAR衛星: AISを切った船舶でも、SAR衛星は海上の船舶をレーダーで直接検出できる。AISデータとSARデータを照合し、「AIS信号がないのにSARで検出された船舶」をIUU漁業の疑いとして抽出する「ダークシップ検出」が可能。

Global Fishing Watch: Google、Oceana、SkyTruthが共同で運営するプラットフォーム。AISデータと衛星画像を組み合わせ、世界中の漁船の活動をリアルタイムで可視化。機械学習で漁業活動パターンを自動分類し、IUU漁業の疑いがある船舶を特定する。

事例

インドネシアの取り締まり強化: インドネシア政府はGlobal Fishing Watchのデータを活用し、自国EEZ(排他的経済水域)内のIUU漁業を効率的に取り締まり。衛星データの導入後、違法漁船の拿捕率が大幅に向上。

北朝鮮制裁監視: 国連安保理の北朝鮮制裁に基づく瀬取り(洋上での石油の不正移転)の監視にもSAR衛星が活用されている。


海面上昇の精密測定

衛星高度計

海面の高さを宇宙から精密測定する技術が衛星高度計(アルティメーター)だ。レーダーパルスを海面に照射し、反射波の往復時間から海面高度をミリメートル精度で測定する。

主要ミッション

Jason/Sentinel-6シリーズ: 1992年のTOPEX/Poseidonから続く海面高度測定衛星の系譜。2020年に打ち上げられたSentinel-6 Michael Freilichが現在の最新機。30年以上の連続データにより、全球平均海面上昇率が年間約3.4mmであることが精密に測定されている。

ICESat-2(NASA): レーザー高度計で極域の氷床の厚さと海氷の面積を測定。グリーンランドと南極の氷床融解の加速が海面上昇を加速させていることを定量化。

最新の知見

海面上昇率は加速している。1993〜2002年の平均上昇率は年間約2.5mmだったが、2013〜2023年には年間約4.5mmに加速。この傾向が続けば、2100年までに海面は30〜100cm上昇し、沿岸都市の浸水リスクが劇的に高まる。

日本は海岸線が長い島国であり、海面上昇の影響を特に受けやすい。東京湾・大阪湾の低地部や、太平洋沿岸の港湾施設への影響が懸念されている。


海洋汚染の検出

油流出

SAR衛星は海面の油膜を検出できる。油膜は海面の微小な波(キャピラリー波)を抑制するため、SARの後方散乱強度が低下し、暗い領域として映る。

Sentinel-1(ESA)のSARデータを用いた自動油膜検出システムが、欧州海上安全庁(EMSA)のCleanSeaNetサービスとして運用されている。年間数千件の油汚染候補を検出し、当局に通報。

プラスチック汚染

海洋プラスチック汚染の衛星検出は研究段階だが、急速に進歩している。

ハイパースペクトル衛星: プラスチックは近赤外線の特定波長(約1,730nm、2,300nm)で吸収特性を示す。ハイパースペクトル衛星でこの波長を観測し、海面の大規模なプラスチック集積帯を検出する研究が進んでいる。

太平洋ゴミベルト: 北太平洋に広がる巨大なプラスチック集積帯の範囲と密度を、衛星データとドリフターブイのデータを組み合わせて推定。The Ocean Cleanupプロジェクトの清掃活動計画に衛星データが活用されている。

赤潮・有害藻類ブルーム

衛星のマルチスペクトルデータで海面のクロロフィル濃度を測定し、赤潮や有害藻類ブルーム(HAB)の発生・拡大をリアルタイムで監視する。水産業への早期警報に活用。


海洋気象と海流の観測

海面水温(SST)

MODIS(Terra/Aqua衛星)やVIIRS(Suomi NPP/JPSS衛星)の赤外線センサーで海面水温を全球的に測定。エルニーニョ/ラニーニャ現象の監視、漁場予測、台風の発達予測に不可欠なデータ。

海流と波高

衛星高度計で海面の傾斜から海流(地衡流)を推定。SAR衛星で波高と波長を測定し、外洋航路の安全運航に活用。

日本の海洋衛星

GCOM-W「しずく」: JAXAのマイクロ波放射計衛星。海面水温、海氷、降水量、土壌水分を全球的に観測。

GCOM-C「しきさい」: 光学センサーで海面のクロロフィル濃度、エアロゾル、雲の特性を観測。海洋生態系と気候変動の研究に活用。


まとめ

海洋監視衛星は、地球の「最後のフロンティア」である海洋の理解と保全に不可欠なツールだ。IUU漁業の追跡、海面上昇の精密測定、海洋汚染の検出、気象予測の高度化など、その応用範囲は年々拡大している。

日本は四方を海に囲まれた海洋国家として、衛星による海洋監視技術の恩恵を最も受ける立場にある。「しずく」「しきさい」などのJAXA衛星データとCopernicus/Sentinel衛星の無料データを組み合わせた海洋監視の高度化が期待される。


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