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ロケット推進方式完全ガイド2026: 液体/固体/ハイブリッド/電気推進を徹底比較


この記事は「ロケット完全ガイド」の詳細記事です。

ロケット推進の基本原理

ロケットは、推進剤を高速で噴射し、その反作用(ニュートンの第3法則)で前進する。宇宙空間には空気がないため、ジェットエンジンのように外気を取り込む方式は使えない。すべての推進剤を搭載して飛行するのがロケットの特徴だ。

推進方式の性能は主に2つの指標で評価される。

推力(Thrust): エンジンが発生する力。単位はニュートン(N)またはキロニュートン(kN)。打ち上げには巨大な推力が必要。

比推力(Specific Impulse, Isp): 燃費の良さを示す指標。単位は秒。比推力が高いほど、少ない推進剤で大きな速度変化(Δv)を得られる。


液体推進

液体推進ロケットは、液体の酸化剤と燃料をエンジンの燃焼室で混合・燃焼させてガスを生成し、ノズルから噴射する。

ケロシン/液体酸素(RP-1/LOX)

項目
比推力約310〜340秒
密度高い(タンクが小型)
取扱い容易(常温保存可)
代表エンジンMerlin(SpaceX)、RD-180(ロシア)

ケロシン系は密度が高く、第1段エンジンに最適だ。SpaceXのFalcon 9は9基のMerlinエンジンを搭載し、海面推力7,600kNを発生する。コストパフォーマンスに優れ、現在最も多く使われている組み合わせだ。

液体水素/液体酸素(LH2/LOX)

項目
比推力約440〜460秒
密度極めて低い(タンクが巨大)
取扱い困難(−253度の極低温)
代表エンジンRS-25(NASA SLS)、LE-9(JAXA H3)、Vulcain 2(Ariane)

液体水素は最も比推力が高い化学推進剤だ。しかし、密度が液体酸素の1/16と極めて低く、巨大なタンクが必要になる。極低温のため蒸発(ボイルオフ)の問題もある。上段エンジンや、燃費が重要なミッションで使用される。

液体メタン/液体酸素(LCH4/LOX)

項目
比推力約350〜380秒
密度中程度
取扱いやや困難(−161度)
代表エンジンRaptor(SpaceX Starship)、BE-4(Blue Origin New Glenn)

メタン系は2020年代の主流になりつつある。ケロシンより比推力が高く、水素より扱いやすい。エンジン内部にすすが付着しにくく、再使用に適している。さらに、火星の大気(CO2)と水からメタンを合成できるため、火星での推進剤製造(ISRU)に有利だ。


固体推進

固体推進剤は、酸化剤と燃料を粉末状に混合して固体に成形したものだ。点火すると消火できないという特徴がある。

項目
比推力約240〜280秒
推力非常に高い
取扱い容易(長期保存可)
代表例SRB(スペースシャトル/SLS)、イプシロン(JAXA)

メリット

  • 構造が単純で信頼性が高い
  • 即時発射可能(液体推進のような充填作業が不要)
  • 長期保存が可能(軍事用途に適する)

デメリット

  • 比推力が低い(燃費が悪い)
  • 点火後に推力を制御できない(停止・再始動不可)
  • 有害な排出物(塩化水素、アルミナ粒子)

日本のイプシロンロケットは世界でも数少ない全段固体推進ロケットだ。即応性と低コストが強みだが、ペイロード能力では液体ロケットに劣る。


ハイブリッド推進

固体の燃料と液体(または気体)の酸化剤を組み合わせる方式。液体と固体の中間的な特性を持つ。

項目
比推力約280〜320秒
推力制御可能(酸化剤の流量で調整)
安全性高い(自己着火しない)
代表例SpaceShipTwo(Virgin Galactic)、HYBRID(インターステラテクノロジズ研究中)

ハイブリッドロケットは安全性が高く、推力の調整も可能だ。しかし、燃焼効率が液体推進に劣り、燃料の均一な燃焼が技術的な課題だ。サブオービタル飛行やサウンディングロケットに適している。


電気推進

電気エネルギーで推進剤を加速する方式。化学推進と比較して推力は極めて小さいが、比推力が桁違いに高い。

イオンエンジン

項目
比推力約1,500〜3,000秒
推力極小(数mN〜数百mN)
推進剤キセノン、クリプトン
代表例はやぶさ2(μ10)、Starlink(クリプトンホールスラスタ)

推進剤のガス(キセノンやクリプトン)をイオン化し、電場で加速して噴射する。JAXAのはやぶさ2に搭載されたμ10イオンエンジンは、比推力3,000秒以上を達成している。

ホールスラスタ

イオンエンジンの一種で、磁場を利用してイオンを加速する。イオンエンジンより推力が大きく(数十mN〜数N)、衛星の軌道維持や軌道遷移に広く使われている。Starlinkの衛星はクリプトンを推進剤とするホールスラスタを搭載している。

電気推進の用途

  • 衛星の軌道維持(ステーションキーピング)
  • GEOへの電気推進軌道遷移(化学推進より数ヶ月かかるが推進剤を大幅削減)
  • 深宇宙探査(はやぶさ2、Dawn、SMART-1)
  • デブリ除去衛星の推進

次世代の推進技術

核熱推進(NTP)

原子炉の熱で水素を加熱・噴射する方式。比推力は約900秒で、化学推進の約2倍。NASAとDARPAは「DRACO」プログラムで2027年の軌道上実証を計画している。火星への飛行時間を従来の9ヶ月から4〜5ヶ月に短縮できる可能性がある。

太陽帆(ソーラーセイル)

推進剤を使わず、太陽光の放射圧で推進する。JAXAの「IKAROS」は2010年に世界初の太陽帆推進の実証に成功した。推力は極めて小さいが、推進剤が不要なため理論的には無限に加速できる。

デトネーションエンジン

超音速燃焼(デトネーション波)を利用するエンジン。従来の燃焼(デフラグレーション)より熱効率が高く、10〜25%の燃費改善が期待される。JAXAは2021年にデトネーションエンジンの宇宙実証に世界で初めて成功した。


まとめ

ロケット推進方式の選択は、ミッション要件(打ち上げ、軌道遷移、深宇宙探査)によって決まる。2020年代のトレンドはメタン燃料への移行と電気推進の普及だ。核熱推進やデトネーションエンジンなどの次世代技術が実用化されれば、太陽系探査のスピードと効率が飛躍的に向上する。


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