地上の太陽光発電は天候や昼夜に左右される。発電効率は理論値の20〜25%程度にとどまる。もし宇宙空間で太陽光を集め、24時間365日発電できたら——。宇宙太陽光発電システム(SSPS)は、この課題を根本から解決する構想だ。
SSPSの基本的な仕組み
宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power Systems)は、大きく3つの要素で構成される。
- 宇宙空間の太陽光パネル — 静止軌道(高度約36,000km)に巨大な太陽光パネルを展開し、太陽エネルギーを電力に変換する
- 無線送電 — 発電した電力をマイクロ波またはレーザー光に変換し、地上に向けて送信する
- 地上受電設備(レクテナ) — 地上のアンテナでマイクロ波を受信し、電力に再変換する
宇宙空間では大気による減衰がなく、雲も夜もないため、地上の5〜10倍のエネルギー密度で太陽光を受けることができる。
JAXAの研究開発状況
JAXAはSSPSの研究を2000年代から本格的に進めている。
マイクロ波無線送電の実証
2015年、JAXAは地上で1.8kWのマイクロ波電力を55m離れた受電装置に送電する実験に成功した。宇宙から地上への長距離送電の基礎技術としての成果だ。
DELIGHT計画
JAXAは新型宇宙ステーション補給機HTV-Xの1号機を利用し、展開型軽量平面アンテナの軌道上実証(DELIGHT)を計画している。将来のSSPSで必要な大型宇宙構造物を軌道上で構築するための基盤技術だ。
実用化のタイムライン
当初は2030年代の実用化を目標としていたが、技術的な課題の大きさから、現在は21世紀後半以降の実現を見据えて研究開発を進めている。政府は2025年頃に小規模な宇宙から地上への送電実証を目標に掲げている。
SSPSのメリット
24時間365日発電
地上の太陽光発電の設備利用率は約15%だが、SSPSは理論上95%以上が可能だ。天候や季節に左右されない安定した電力供給が実現する。
CO2排出ゼロ
発電時にCO2を排出しない。製造・打ち上げ時のエネルギー消費を考慮しても、長期運用でカーボンフットプリントは大幅に削減できる。
災害耐性
地上の発電設備と異なり、地震・台風・津波の影響を受けない。受電設備(レクテナ)が被災しても、別の場所に送電先を切り替えることが理論上は可能だ。
エネルギー安全保障
化石燃料に依存しないため、地政学的リスクの影響を受けにくい。資源の乏しい日本にとって、エネルギー自給率の向上に直結する技術だ。
技術的課題
巨大構造物の宇宙建設
1GW級のSSPSを実現するには、数km四方の太陽光パネルを宇宙空間で組み立てる必要がある。現在のロケット打ち上げ技術では、必要な資材を軌道に運ぶだけで天文学的なコストがかかる。
長距離無線送電の効率
36,000kmの距離をマイクロ波で送電する際の効率損失は大きな課題だ。現在の技術では送電効率50%程度が限界とされている。
建設コスト
1GW級SSPSの建設コストは数兆円規模と試算されている。打ち上げコストの劇的な削減が前提条件となる。
メンテナンス
静止軌道上での修理や部品交換は極めて困難だ。20〜30年以上の長期運用に耐える高信頼性の設計が求められる。
世界の動向
- アメリカ — カリフォルニア工科大学が2023年に宇宙での太陽光発電とマイクロ波送電の実証実験(SSPD-1)を実施
- 中国 — 重慶に地上検証施設を建設。2030年代のMW級実証を計画
- 欧州 — ESAが「SOLARIS」プロジェクトでSSPSの実現可能性を調査中
- イギリス — Frazer-Nash Consultancyが2021年に35GW級SSPSの技術報告書を公表
まとめ
宇宙太陽光発電は「究極のクリーンエネルギー」として魅力的だが、実用化には巨大宇宙構造物の建設技術、長距離無線送電の効率化、打ち上げコストの大幅削減という3つの壁を越える必要がある。21世紀後半の実用化に向け、日本はJAXAを中心に着実に技術の蓄積を進めている。