2026年3月のSpaceNews報道から、欧州・中国・日本を中心とした宇宙技術・サプライチェーンの動きを整理する。
1. Astroscale × Isar Aerospace — 日独連携でデブリ除去を欧州から打ち上げ
日本のAstroscale社が、ドイツのロケット企業Isar Aerospace社のSpectrumロケットでELSA-M(デブリ除去実証機)を打ち上げる契約を締結した(2026年3月13日)。打ち上げは2027年5月以降を予定。
ELSA-MはAstroscale UK(英国法人)が開発中で、機能を停止したOneWeb衛星(高度1,200km)にドッキングし、軌道を下げて大気圏に再突入させるミッション。ESA(欧州宇宙機関)が資金支援している。
Astroscaleは「欧州の自立的な宇宙開発にとって、この打ち上げを欧州から行うことに戦略的な意義がある」としている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発注者 | Astroscale(日本/英国) |
| 打ち上げ | Isar Aerospace Spectrum(ドイツ) |
| ミッション | OneWeb衛星のデブリ除去実証 |
| 時期 | 2027年5月以降 |
| 資金 | ESA支援 |
Astroscaleの2026年度9ヶ月間の収入は83.5億円(5,220万ドル)。営業損失は71.4億円。
2. Enpulsion — オーストリアの衛星推進系企業が2,600万ドル調達
オーストリア・ウィーンのEmpulsion社が、初の外部資金調達として2,250万ユーロ(2,600万ドル)を調達した(2026年3月12日)。ドイツのNordwind Growthが主導。
同社は小型衛星向けの電界放出型電気推進スラスタ(FEEP)を製造しており、320基以上のスラスタが軌道上で稼働中。累計500年以上の飛行実績がある。設立から約10年間は黒字経営・自己資金で運営してきた。
調達資金の使途:
- 個別スラスタからモビリティシステム全体への事業拡大
- 米国市場への進出(組立・試験施設の設立)
- 補完的な技術企業の戦略的買収
CEOは推進系分野で今後「大幅な統合」が進むと予測している。
3. 中国 — 低コスト月面貨物輸送システムを開発中
上海航天技術研究院(SAST)が、月面への低コスト貨物輸送システムの構想を公表した(2026年3月、上海商業航天カンファレンスにて展示)。
国際月面研究ステーション(ILRS)の建設を支援するもので、120kgから5,000kgまでの貨物を月面に輸送できる着陸機のファミリーを計画している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発 | 上海航天技術研究院(SAST / CASC系列) |
| 推進 | メタン-液体酸素(メタロックス)方式 |
| 輸送能力 | 120kg〜5,000kg |
| 用途 | 科学機器、ローバー、インフラ設備、基地建設支援 |
| 進捗 | 実証機でのホバリング・着陸試験を完了。2026年2月にメタロックスエンジン(300N級)の試験も実施 |
従来の月面着陸機はヒドラジン系の毒性燃料を使用するが、メタロックス方式はコスト低減と環境負荷の軽減が見込まれる。
4. Another Earth — 合成衛星データでAI学習を加速
ウィーン発のスタートアップAnother Earth社が、400万ドルのシード資金調達を発表した(2026年3月11日)。生成AIと3D処理を組み合わせて、人工的な衛星画像(合成データ)を生成し、AIモデルの学習データとして提供する事業を行っている。
解決する課題
衛星画像をAIに学習させるには大量の高品質データが必要だが、以下の問題がある:
- 高品質な衛星画像の取得コストが高い
- データにバイアス(偏り)がある
- アクセスが難しい地域(紛争地帯、極地等)のデータが不足している
Another Earthは合成データでこれらを補い、実際の衛星画像なしでもAIを学習させられる。
用途
- 生物多様性のモニタリング
- 森林伐採の追跡
- 森林の炭素蓄積量の推定
- エネルギー・サプライチェーンの監視
- 環境リスクのシミュレーション
ブラジルのNovaTerra社、南アフリカのGeoTerra Image社にすでに商用提供している。
投資家
Wake-Up Capital、Rockstart、Inovexus、Stamco、オーストリア政府系機関(AWS、FFG)。
5. York Space × Orbion Space — 衛星サプライチェーンの垂直統合(米国)
米国デンバーの衛星メーカーYork Space Systems社が、ミシガン州の電気推進システム開発企業Orbion Space Technology社を買収した(2026年3月12日発表、金額非公開)。
York Space Systems
- 衛星の標準化プラットフォームで量産・低コスト化を推進
- 米国防総省の宇宙開発庁(SDA)コンステレーションの主要サプライヤー
- 2026年初頭に上場。時価総額は約33億ドル
- 先に衛星地上ネットワークのAtlas Space Operationsも買収済み
Orbion Space Technology
- 小型衛星向けのAuroraホールスラスタ(電気推進エンジン)を開発
- 月産約12基の生産能力
- 2026年1月にYork向けに33基のAurora推進ユニットを納品済み
垂直統合の狙い
York CEOは「コンステレーション規模の需要の増大に、Orbionの技術をより密接に連携させる」と述べている。外部サプライヤーへの依存を減らし、衛星の設計から推進系まで一貫して自社で供給できる体制を構築する動き。
宇宙産業では、SpaceXが自社でロケットエンジン・衛星・地上局を内製する垂直統合モデルが成功しており、Yorkも同様の方向に進んでいる。
6. Mantis Space — 軌道上で衛星に太陽光を送電するコンステレーション(米国)
ニューメキシコ州のスタートアップMantis Space社が、1,000万ドルのシード資金調達とともにステルスを脱して登場した(2026年3月12日)。軌道上の衛星に太陽光電力を送電するコンステレーションを構築する計画。
解決する課題
低軌道の衛星は地球の影に入る時間が約3分の1あり、その間は太陽光発電ができない。Mantis Spaceは中低軌道から光学的に電力を送信し、既存衛星の太陽電池パネルにそのまま受信させる(衛星側の改修は不要)。
技術の特徴
- 衛星本体は製造せず、ペイロード(光学送電システム)を開発
- 宇宙船の製造は未公表のメーカーと提携
- SpaceX、Rocket Lab、Blue Origin、Firefly、Relativity Spaceのロケットに対応するサイズ
チーム
| 役職 | 名前 | 経歴 |
|---|---|---|
| CEO | Eric Truitt | 元Terran Orbital最高ソリューション責任者 |
| 会長/CSO | Hugh Wyman Howard III | 元国家地理空間情報局(NGA)運用部長 |
| COO | Jeremy Scheerer | 元MapLarge防衛システムVP |
| チーフエンジニア | John Sandusky | 元Sandia国立研究所 宇宙・レーザー部門主任 |
| 光学技術部長 | Greg Brady | 元Apple Face ID光学システム設計者 |
| 電気技術部長 | Quentin Diduck | 元Google MicroLED技術エンジニア |
Apple・Google・Metaの元エンジニアをシリコンバレーオフィスで採用する計画。
資金
- シード: 1,000万ドル(Rule 1 Ventures、Montauk Capital主導)
- ニューメキシコ州・アルバカーキ市から約2,400万ドルの誘致支援(本社・製造施設)
6つの動きに共通する点
| テーマ | 該当 |
|---|---|
| サプライチェーンの垂直統合 | York Space(推進系買収)、Enpulsion(モビリティシステム全体へ拡大) |
| 欧州の自立性 | Astroscale×Isar(欧州からの打ち上げ)、Enpulsion(米国進出)、Another Earth(欧州の技術的独立) |
| AIと宇宙の交差 | Another Earth(合成衛星データ)、Mantis Space(AI処理衛星への電力供給) |
| 低コスト化 | 中国の月面貨物(メタロックスで低コスト化)、York Space(量産による低コスト化) |