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SAR(合成開口レーダー)完全ガイド: 原理から活用事例まで


初心者向けの概要はSAR入門をご覧ください。

この記事は「衛星データ活用ガイド」の詳細記事です。

SARとは何か

SAR(Synthetic Aperture Radar / 合成開口レーダー)は、マイクロ波を地表に照射し、その反射波を受信して画像を生成するレーダー技術だ。光学衛星が太陽光の反射を撮影するのに対し、SARは自らマイクロ波を発する能動型センサーである。

この特性により、SARには決定的な利点がある。

  • 天候に左右されない: 雲・雨・霧を透過してマイクロ波が地表に到達する
  • 昼夜を問わない: 太陽光が不要なため、夜間でも観測可能
  • 地表の変化を検出: 数mmレベルの地盤変動を干渉解析(InSAR)で検出可能

SARの原理

合成開口の仕組み

通常のレーダーで高い空間分解能を得るには、巨大なアンテナが必要だ。しかし衛星に数百メートルのアンテナを搭載するのは不可能である。

SARは、衛星の移動を利用して仮想的な大型アンテナを合成する。衛星が軌道上を移動しながら連続的にマイクロ波のパルスを送受信し、受信データを計算処理で合成することで、あたかも巨大なアンテナで受信したかのような高分解能の画像を得る。これが「合成開口」の意味だ。

主要な撮像モード

  • ストリップマップモード: 最も基本的なモード。衛星の進行方向に沿って帯状に撮影
  • スポットライトモード: 特定の領域にアンテナを向け続け、最高分解能を実現(25cm級)
  • ScanSARモード: 広い範囲を中分解能で撮影。大規模な災害監視に適する
  • TOPS(Terrain Observation with Progressive Scans): ScanSARの改良版。Sentinel-1で採用

偏波

SARは送信と受信のマイクロ波の偏波方向を組み合わせることで、地表の特性をより詳細に把握できる。

  • HH(水平送信・水平受信): 海面・水面の観測に適する
  • VV(垂直送信・垂直受信): 植生の観測に適する
  • HV/VH(クロス偏波): 森林のバイオマス推定に有効
  • フルポラリメトリ: 4偏波すべてを取得し、最も詳細な分析が可能

主要なSAR衛星・企業

政府系SAR衛星

  • Sentinel-1(ESA): C帯SAR。データは無料公開。欧州コペルニクス計画の主力
  • ALOS-2/4(JAXA): L帯SAR「だいち」シリーズ。森林・地殻変動の観測に強い
  • RADARSAT-2/RCM(カナダ): C帯SAR。北極圏の海氷監視に活用

民間SAR衛星

  • Capella Space(米国): X帯SAR。25cm級の超高分解能。リアルタイムに近い撮影が可能
  • ICEYE(フィンランド): X帯SAR。小型衛星コンステレーションで高頻度観測
  • Synspective(日本): X帯SAR「StriX」シリーズ。インフラモニタリングに特化
  • Umbra(米国): X帯SAR。16cm級の超高分解能を商業提供

SARの活用事例

防災・災害対応

洪水、地震、火山噴火、地滑りなどの災害時、SARは天候に関係なく被害状況を把握できる。2024年の能登半島地震では、ALOS-2のSARデータが地盤変動の把握に活用された。InSAR(干渉SAR)を用いれば、数cm〜数mmの地盤沈下や隆起を検出可能だ。

農業

SARは植生の生育状況、土壌水分、作付面積の推定に利用される。光学画像と異なり曇天でも観測できるため、熱帯地域の農業モニタリングに特に有効だ。

海洋監視

船舶検出(AIS信号を発しない船舶の特定)、油流出の検知、海氷の監視など、海洋分野でSARの需要が高まっている。違法漁業の監視にも活用されている。

インフラモニタリング

InSARを用いて、橋梁・ダム・トンネルなどのインフラの微小な変形を継続的に監視する。Synspectiveはこの分野に注力し、日本のインフラ老朽化対策への活用を推進している。

安全保障・インテリジェンス

夜間や悪天候でも観測可能なSARは、軍事偵察にとって不可欠なツールだ。民間SARデータの軍事利用も拡大しており、ウクライナ紛争ではICEYEやCapella Spaceのデータが活用されたと報じられている。


SARデータの入手方法

無料データ

Sentinel-1のデータはCopernicus Data Space Ecosystemから無料でダウンロード可能。ALOS-2のデータも一部がJAXAから提供されている。

商業データ

Capella Space、ICEYE、Synspectiveなどの商業SAR衛星データは、APIを通じてオンデマンドで購入できる。価格は撮影面積や分解能によって異なるが、1シーンあたり数百〜数千ドル程度だ。


まとめ

SARは、天候や昼夜に関わらず地表を観測できる強力なリモートセンシング技術だ。防災・農業・海洋監視・安全保障など幅広い分野で需要が拡大しており、小型SAR衛星コンステレーションの登場により、時間分解能も飛躍的に向上している。日本のSynspectiveやJAXAのALOSシリーズなど、日本にも強みのある分野である。


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