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トランプ政権と宇宙政策の全記録 — Space Force創設からNASA予算24%削減、マスクとの対立まで


米国の宇宙政策はトランプ政権下で大きく揺れ動いてきた。第1期(2017-2021年)ではArtemis計画の立ち上げとSpace Forceの創設という歴史的成果を残した一方、第2期(2025年-)ではNASA予算の大幅削減、イーロン・マスクとの対立、SLS廃止案など混乱が続いている。

本記事では、トランプ政権の宇宙政策を時系列で整理し、宇宙産業への影響を検証する。


第1期(2017-2021年): 月面回帰とSpace Force

2017年: 月面回帰を宣言

2017年12月、トランプ大統領は「宇宙政策指令1号(Space Policy Directive 1)」に署名し、NASAに月面有人着陸の再開を指示した。アポロ計画以来となる月面回帰の方針が正式に決定され、後の「Artemis計画」の基盤となった。

同年、国家宇宙会議(National Space Council)を24年ぶりに復活させ、マイク・ペンス副大統領が議長に就任。宇宙政策の司令塔を再構築した。

2018年: 宇宙軍構想の発表

2018年6月、トランプ大統領は国防総省に対し、宇宙を「新たな戦闘領域」と位置づけ、独立した宇宙軍の創設を指示した。「Space Force」構想の始まりだった。

同年、NASAの長官にジム・ブライデンスタインが就任。政治家出身の長官は異例だったが、商業宇宙プログラムの推進に注力した。

2019年: Space Force創設

2019年12月20日、トランプ大統領は7,380億ドルの国防予算法案に署名し、米宇宙軍(United States Space Force) を正式に創設した。1947年の空軍以来、72年ぶりの新しい軍種となった。

同年8月には米宇宙軍司令部(U.S. Space Command)を統合戦闘軍として復活。GPS衛星の防護、宇宙状況認識(SSA)、ミサイル警戒を担う体制が整備された。

2020年: Artemis計画の加速

NASAの予算は第1期を通じて180億ドルから210億ドルへと着実に増加した。2020年にはArtemis計画の月面着陸船(HLS)の契約にSpaceX、Blue Origin、Dynetics の3社が選定された(最終的にSpaceXのStarshipが単独受注)。

商業有人輸送(Commercial Crew)ではSpaceXのCrew Dragonが2020年5月に初の有人飛行を成功させ、スペースシャトル退役以来9年ぶりに米国の有人宇宙飛行能力を取り戻した。

関連記事: 宇宙業界 2025年の主な出来事と2026年の見通し


バイデン政権(2021-2024年): 予算増だが方向性は継続

バイデン政権はArtemis計画を継続し、NASA予算を248億ドル(過去最高)まで引き上げた。ビル・ネルソンがNASA長官に就任。

  • 2022年11月: Artemis I(無人月周回飛行)成功
  • 2024年: Boeing Starlinerの有人テスト飛行が技術問題で長期滞留
  • Space Forceの予算・人員も拡大を継続

第2期(2025年-): 混乱と対立

2025年1月: 政権発足と人事

トランプ大統領の再就任と同時に、ビル・ネルソンNASA長官が退任。後任にはSpaceXと関係の深い実業家ジャレッド・アイザックマン(Shift4 Payments CEO)が指名されたが、5月に指名が撤回された。

ジャネット・ペトロ(ケネディ宇宙センター所長)がNASA暫定長官に就任。正式長官不在の状態が続いている。

2025年1-5月: DOGE(政府効率化省)

イーロン・マスクが率いる政府効率化省(DOGE)がNASAを含む連邦機関の予算削減を推進。NASAでは4,000人以上の職員削減が実施された。

DOGEの活動中、SpaceXの政府契約(220億ドル規模)は削減対象から除外されたことが利益相反として批判を受けた。

2025年5月: マスクのDOGE離脱

2025年5月28日、マスクはDOGEを離任。トランプが推進する「One Big Beautiful Bill」(大型支出法案)が財政赤字を拡大させるとして公然と批判したことが対立の引き金となった。

2025年6月: トランプ-マスク対立の表面化

マスクのDOGE批判に対し、トランプ大統領はTruth Socialで以下のように投稿した:

「我々の予算で最も簡単に節約できるのは、数十億ドルに上るイーロンの政府補助金と契約を打ち切ることだ」

ホワイトハウスは国防総省とNASAに対し、SpaceXとの契約内容の精査を指示。SpaceXが保有する政府契約は以下の通り:

契約先金額内容
NASA約130億ドルCrew Dragon、HLS(月面着陸船)、打ち上げサービス
国防総省約59億ドル国家安全保障ミッション打ち上げ
NRO非公開偵察衛星打ち上げ
その他数十億ドルStarlink政府契約等

マスクは一時、Dragon宇宙船の「廃止」を示唆。Dragonは米国がISSに宇宙飛行士を輸送できる唯一の手段であり、契約打ち切りの場合はロシアに依存せざるを得なくなると警告した。

2025年12月: 宇宙政策大統領令

トランプ大統領は月面有人着陸を2028年までに実施する大統領令に署名。Artemis計画の継続を表明した一方、SLS・Orion・Gatewayの長期的な存続については言及しなかった。

国家宇宙会議は廃止された。

関連記事: 米国宇宙企業との提携・契約リスク — 2026年の政治・規制・関税環境を整理


2026年: NASA予算24%削減と議会の反発

予算教書(2026年5月)

ホワイトハウスは2026年度のNASA予算を248億ドル→188億ドルに削減する案を提出。主な内容は以下の通り。

項目削減内容
SLS・OrionArtemis III以降の飛行を廃止。代替として商業ロケットを使用
Gateway月周回ステーション計画を廃止
科学ミッション予算を47%削減。地球科学・宇宙科学の数十ミッションを中止
職員1年で32%削減(1960年以来最小の人員体制)
商業月輸送「Commercial Moon to Mars」に8.6億ドル配分

SLS廃止の理由として、1回あたりの打ち上げコスト40億ドル(予算超過率140%)が挙げられた。SpaceXのStarshipなど商業ロケットへの移行が提案された。

議会の反発(2026年7月)

議会は大統領の削減案をほぼ全面的に否決した。

  • 科学予算: 大統領案39億ドル → 議会72.5億ドル(2025年度比わずか1%減)
  • SLS・Orion・Gateway: 廃止案を否決し、継続を決定
  • 下院397対28、上院82対15で可決

「Big Beautiful Bill」にもArtemis計画、ISS、Gateway、SLSの継続が盛り込まれ、大統領自身の予算要求と矛盾する結果となった。


宇宙産業への影響

勝者と敗者

第1期で恩恵第2期でリスク
SpaceXCommercial Crew成功、HLS単独受注契約精査、マスク対立
BoeingSLS製造契約Starliner失敗、SLS廃止案
Blue OriginHLS候補(落選)Golden Dome参入の機会
NASA科学部門安定した予算47%削減提案(議会が否決)
Space Force創設、予算拡大継続的な拡大(リスク少)

政策の不確実性

トランプ政権の宇宙政策は以下の構造的問題を抱えている。

  1. 大統領と議会の対立: 予算削減案は毎年議会に否決され、政策の一貫性が損なわれている
  2. 個人的対立の政策への波及: マスクとの関係悪化がSpaceX契約に直接影響
  3. 正式長官の不在: NASA長官が7ヶ月以上空席で、組織の意思決定が停滞
  4. 商業移行の矛盾: SLS廃止を提案しつつ、代替となる商業ロケット(Starship)の契約を精査対象にしている

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今後の見通し

短期(2026年後半)

  • Artemis II: 4月1日の打ち上げが成功すれば、月面回帰への支持が強まる可能性
  • Starship V3: 初飛行の成否がSLS廃止論議に直結
  • NASA長官人事: 正式長官の指名・承認が最重要課題

中期(2027-2028年)

  • Artemis III: 月面着陸の実施判断。SLSか商業ロケットかの最終決定
  • 2028年中間選挙: 宇宙政策が争点化する可能性は低いが、NASA予算は影響を受ける
  • トランプ-マスク関係: 和解か、さらなる対立か

宇宙産業への示唆

米国の宇宙政策は大統領個人の判断と議会の力学で大きく変動する。企業が米国宇宙市場に参入する際は、以下を前提にすべき。

  • 予算は毎年の議会承認で決まる(大統領案は参考値)
  • 政策方針は政権交代だけでなく、個人的対立でも変わりうる
  • 商業宇宙への移行は不可逆的なトレンドだが、その速度は政治的に左右される

関連記事: 各国の宇宙予算比較 2026年版

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参考としたサイト

NASA予算・政策

トランプ-マスク対立

Space Force・防衛

Artemis・SLS

人事

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