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衛星×防災: 災害監視と衛星データ活用 — 地震・洪水・山火事・火山の事例


この記事は「衛星データ活用ガイド」の詳細記事です。

衛星が防災に果たす役割

大規模災害が発生すると、被災地の地上インフラ(通信・道路・電力)は破壊される。現地からの情報が途絶する中、衛星は宇宙から被災状況を俯瞰的に把握できる唯一の手段となる。

国際的な災害対応の枠組みとして「国際災害チャーター(International Charter Space and Major Disasters)」がある。これは各国の宇宙機関が保有する衛星を災害時に無償で提供する協定で、2000年の発効以来、800回以上発動されている。


地震被害の把握

InSAR(干渉合成開口レーダー)

InSARは、同一地点を異なる時期に撮影した2枚のSAR画像の位相差から、地表面の数mm〜数cmの変動を検出する技術だ。

2024年能登半島地震: JAXAのだいち2号(ALOS-2)がInSAR解析を実施し、最大約4mの地殻変動を検出した。この データは断層モデルの推定や余震予測に活用された。

トルコ・シリア地震(2023年): Sentinel-1のInSARデータにより、断層の滑り量が推定され、被害が大きい地域の特定に貢献した。

建物被害の自動検出

高解像度光学衛星(Maxar WorldView、Planet SkySat)の災害前後の画像をAIで比較し、倒壊した建物を自動検出する技術が実用化されている。国連衛星センター(UNOSAT)は、この技術で被害規模の迅速な推定を行っている。


洪水の浸水域マッピング

SARの優位性

洪水時は雲が発生することが多く、光学衛星では観測が困難だ。SAR衛星は雲を透過するため、悪天候下でも浸水域を正確に把握できる。

水面はSARの電波を鏡面反射するため、画像上で暗く表示される。この特性を利用して、浸水域の自動抽出が可能だ。

事例

2020年7月豪雨(熊本): だいち2号のSARデータが球磨川流域の浸水域マッピングに使用された。国土地理院が公開した浸水推定図は、自衛隊や消防の救助活動に直接活用された。

ICEYE: フィンランドのICEYEは、自社のSAR衛星コンステレーションで洪水被害のリアルタイムモニタリングを提供している。保険会社向けに洪水被害の自動査定サービスを展開し、保険金支払いの迅速化に貢献している。

国土地理院の取り組み

日本の国土地理院は、SAR衛星データを活用した浸水推定図の迅速な公開を行っている。災害発生から数時間以内に浸水域を推定し、防災機関に提供する体制を整えている。


山火事の早期検知

熱赤外線センサー

山火事の検知には、熱赤外線(TIR)センサーが有効だ。NASAのMODISセンサー(Terra/Aqua衛星搭載)やVIIRS(Suomi NPP/JPSS衛星搭載)は、地表面の温度異常を検出してホットスポット情報を提供している。

FIRMS(Fire Information for Resource Management System): NASAが運用する山火事情報システム。世界中のホットスポットをリアルタイムで表示し、消防機関や森林管理者が利用している。

事例

オーストラリア山火事(2019-2020年): 1,860万ヘクタール以上が焼失した大規模山火事では、衛星データが火災の広がりを追跡し、消火活動の優先順位付けに使われた。Sentinel-2の短波赤外バンドは焼損面積の正確な推定に貢献した。

カリフォルニア山火事: Planet Labsの毎日撮像データが、火災の進行速度を追跡し、避難勧告の発令タイミングの判断に活用されている。

小型衛星コンステレーション

OroraTech(ドイツ)は、小型衛星コンステレーションによる山火事の早期検知サービスを開発中だ。従来の大型衛星は数時間〜1日の遅延があるが、コンステレーションにより30分以内の検知を目指している。


火山噴火の監視

SAR干渉法による地殻変動

火山噴火の前兆として、マグマの上昇に伴う地殻変動がある。InSARは数mm単位の地表面の膨張・沈降を検出でき、噴火予知の重要なツールだ。

桜島: だいち2号のInSARデータが桜島の地殻変動モニタリングに活用されている。マグマの蓄積状況を定期的に評価し、噴火予知に貢献している。

アイスランド・ファグラダルスフィヤル火山(2021年): Sentinel-1のInSARデータが噴火前の地殻変動を捉え、噴火の予測に成功した事例として注目された。

SO2プルームの監視

火山ガス(特にSO2: 二酸化硫黄)の大気中の分布を衛星で監視することも重要だ。Sentinel-5PのTROPOMIセンサーは、SO2の全球的な分布をほぼ毎日観測している。噴火時の火山灰プルームの追跡は、航空安全にとって不可欠だ。


津波被害の評価

衛星通信の役割

2011年の東日本大震災では、地上通信インフラの広範な破壊により、被災地からの情報伝達が困難になった。衛星通信(VSAT)が唯一の通信手段として機能した地域が多数あった。

被害評価

津波後の被害評価では、高解像度光学衛星による津波前後の画像比較が最も効果的だ。建物の流出、地形の変化、がれきの分布を宇宙から確認できる。


宇宙防災の課題

時間分解能

現行の衛星では、同一地点の再訪周期が数日〜数週間ある。災害発生直後の「ゴールデンタイム」(72時間以内)に観測できるかは運次第だ。小型衛星コンステレーションの拡大により改善されつつあるが、リアルタイム性にはまだ課題がある。

データの即時利用

衛星データは取得してから処理・解析して防災機関に届くまでに時間がかかる。AI による自動解析とクラウドベースの配信システムが、この「ラストマイル」の短縮に貢献している。

日本の体制

日本では、国土地理院、JAXA、防災科学技術研究所(NIED)が連携して衛星データの防災活用を推進している。だいち4号(ALOS-4、2024年打ち上げ)はLバンドSARを搭載し、地殻変動・浸水域の監視能力が大幅に向上している。


まとめ

衛星データは防災の「目」として不可欠なインフラだ。SAR衛星による全天候観測、InSARによるmm精度の地殻変動検出、AI による被害自動評価など、技術は急速に進歩している。課題は「データを取得する速さ」と「情報を届ける速さ」であり、小型衛星コンステレーションとAI解析の組み合わせが次の10年で大きなブレークスルーをもたらすだろう。


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