この記事は「宇宙の謎 完全ガイド」の詳細記事です。
なぜ宇宙は黒いのか — オルバースのパラドックス
夜空が暗いことは当たり前に思えるが、実は深い謎を含んでいる。19世紀のドイツの天文学者ハインリヒ・オルバースが定式化した「オルバースのパラドックス」は、宇宙が無限に広く無限に多くの星があるなら、空のどの方向を見ても必ず星の表面にたどり着くはずで、夜空は星の光で埋め尽くされて明るく輝くはずだ、という矛盾を指摘する。
この矛盾が生じない理由は主に2つある。第一に、宇宙には始まりがある(約138億年前のビッグバン)ため、光が届く距離に限界がある。第二に、宇宙は膨張しているため、遠方の天体からの光は赤方偏移を起こし、可視光の波長からずれて見えなくなる。つまり宇宙が黒い理由は、宇宙に年齢があり膨張しているからだ。
星の色と温度の関係
色で星の表面温度がわかる
星の色は表面温度によって決まる。これは黒体放射の法則に従っており、温度が高いほど短い波長(青側)にピークがずれ、温度が低いほど長い波長(赤側)にピークがずれる。これをウィーンの変位則という。
| スペクトル型 | 色 | 表面温度 | 代表的な星 |
|---|---|---|---|
| O型 | 青白 | 30,000K以上 | アルニタク |
| B型 | 青白 | 10,000〜30,000K | リゲル、スピカ |
| A型 | 白 | 7,500〜10,000K | シリウス、ベガ |
| F型 | 黄白 | 6,000〜7,500K | プロキオン |
| G型 | 黄 | 5,200〜6,000K | 太陽 |
| K型 | オレンジ | 3,700〜5,200K | アルクトゥルス |
| M型 | 赤 | 2,400〜3,700K | ベテルギウス |
太陽はG型星で表面温度は約5,778K、黄色い光を放つ。冬の夜空に輝くオリオン座のベテルギウスはM型の赤色超巨星で表面温度は約3,500K、リゲルはB型の青白色超巨星で約12,000Kだ。
星の色は一生で変わる
星は誕生から死までの進化の過程で色が変化する。主系列星の段階では質量に応じた色を保つが、水素燃料を使い果たすと赤色巨星に膨張して赤くなり、最終的に白色矮星として青白く冷えていく。星の色は星の「今の状態」を教えてくれるバロメーターだ。
星雲の色 — 輝線スペクトルの世界
なぜ星雲はカラフルなのか
ハッブル宇宙望遠鏡の画像で見る星雲は実にカラフルだ。星雲の色は、ガスに含まれる元素が特定の波長の光を放つことで生まれる。高温の星からの紫外線がガスの原子を電離(イオン化)し、電子が再結合する際に特定波長の光子を放出する。この仕組みを輝線放射という。
元素ごとの色
- 水素(H-alpha): 赤色(波長656nm)。星雲の赤い領域の大部分は水素のH-alpha輝線による
- 酸素(OIII): 青緑色(波長496nm、501nm)。惑星状星雲の青緑色の領域はイオン化酸素による
- 窒素(NII): 赤色(波長658nm)。水素のH-alphaと近い波長だが、わずかに異なる
- 硫黄(SII): 暗赤色(波長672nm)。拡散星雲の暗い赤色の部分に寄与する
NASAのハッブル宇宙望遠鏡が公開する画像では、狭帯域フィルターで撮影した画像に「ハッブルパレット」と呼ばれる擬似カラーを割り当てることがある。硫黄を赤、水素を緑、酸素を青に割り当てるため、肉眼で見た色とは異なる場合がある点に注意が必要だ。
地球が青い理由
宇宙から見た地球は「青い惑星」として知られる。地球が青く見える理由は主に2つある。
第一に、地球表面の約71%を占める海洋が太陽光の赤い波長を吸収し、青い波長を反射・散乱するためだ。第二に、大気中の窒素や酸素の分子が太陽光の短い波長(青色)を強く散乱するレイリー散乱が起きているためだ。この2つの効果が重なり、地球は宇宙から見ると全体的に青く輝いて見える。
なお空が青い理由もレイリー散乱で説明できる。太陽光が大気に入ると、波長の短い青い光が空気の分子に散乱されてあらゆる方向に広がるため、空全体が青く見えるのだ。
火星が赤い理由
火星は「赤い惑星」と呼ばれる。その赤い色の原因は、火星の表面を覆う酸化鉄(さび)だ。火星の土壌と岩石には鉄が多く含まれており、過去に水や酸素が存在した時代に鉄が酸化した。このさびた鉄鉱物(主にヘマタイト)が太陽光の青い波長を吸収し、赤い波長を反射するため、火星全体が赤く見える。
火星の大気中にもこの微細なさびの粒子(ダスト)が舞い上がっているため、火星の空も地球の青い空とは異なり、赤みがかった色をしている。ただしNASAの火星探査車が撮影した夕焼けの画像では、太陽の周囲がわずかに青く見える。これはダスト粒子のサイズによる光の散乱の違いで説明される。
宇宙の平均色 — コズミックラテ
20万個の銀河の光を混ぜると
2002年、ジョンズ・ホプキンス大学のカール・グレイザーブルックとイワン・バルドリーの研究チームが、20万個以上の銀河の光のスペクトルを平均して「宇宙の平均色」を算出した。2dFGRS(2度視野銀河赤方偏移サーベイ)のデータをもとに、全銀河の光を混ぜ合わせた結果、宇宙の平均色はベージュに近い淡い色であることが判明した。
「コズミックラテ」の命名
研究チームが一般公募で名前を募ったところ、「コズミックラテ(Cosmic Latte)」という名前が選ばれた。16進カラーコードでは#FFF8E7に相当する。カフェラテの色に似た、わずかにクリーム色がかった白だ。
この色は宇宙の現在の姿を反映している。宇宙の初期には若い高温の星が多く、平均色はもっと青かった。宇宙が年齢を重ねるにつれて星が老化し、赤い星の割合が増えるため、平均色は徐々に赤方向にシフトしている。数十億年後にはさらに赤みが増していくと予測されている。
宇宙の色に関する意外な事実
- 太陽は実は白い: 地球上から見ると黄色く見えるが、大気のレイリー散乱で青い光が散乱されるため。宇宙空間から見ると太陽はほぼ白色だ
- 月は灰色: 月面はレゴリス(細かい岩石の粉末)で覆われており、実際には灰色だ。地球から黄色っぽく見えるのは大気の影響
- 土星の環は淡いクリーム色: 主に水の氷粒で構成されており、わずかな岩石不純物が色をつけている
- 天王星は淡い青緑色: 大気中のメタンが赤い光を吸収するため、青緑色に見える
よくある質問(FAQ)
Q. 宇宙空間で肉眼で星雲は見えますか?
国際宇宙ステーション(ISS)からでも、肉眼で見える星雲は限られる。オリオン大星雲(M42)はかすかに見えるが、ハッブル宇宙望遠鏡の画像のようなカラフルな姿は見えない。人間の目は暗い環境では色を識別する錐体細胞がほとんど機能しないため、星雲は白っぽく見えることが多い。
Q. ブラックホールは何色ですか?
ブラックホール自体は光を一切放出しないため「色」は存在しない。ただし、ブラックホールの周囲に降着円盤(ガスや塵が高速回転する円盤)がある場合、そのガスは数百万度に加熱されてX線や可視光を放出する。映画「インターステラー」で描かれた光る輪は、この降着円盤と重力レンズ効果を表現したものだ。
Q. 宇宙の平均色は今後も変わりますか?
変わる。宇宙の膨張に伴い、新しい星の形成率は徐々に低下し、既存の星は年齢を重ねて冷えていく。数兆年の時間スケールでは、宇宙の平均色は現在のベージュからさらに赤方向にシフトし、最終的には星が燃え尽きて暗くなっていくと考えられている。
まとめ
宇宙の色には物理法則が凝縮されている。宇宙が黒いのは宇宙に年齢があるから、星の色は表面温度が決め、星雲の色は元素の輝線スペクトルが描き、惑星の色は大気と表面の化学組成が決定する。そして全銀河の光を平均すると「コズミックラテ」というベージュ色になる。色を通じて宇宙を見ると、物理学と化学の法則が宇宙のあらゆるスケールで働いていることを実感できる。
参考としたサイト
- Johns Hopkins University — The Cosmic Spectrum and Cosmic Latte
- NASA — Why Is the Sky Blue?
- NASA — Mars Facts
- ESA/Hubble — Hubble Palette