はじめに — 100億ドルの「タイムマシン」
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、NASAが約100億ドル(約1.5兆円)と25年以上の歳月をかけて開発した赤外線宇宙望遠鏡だ。2021年12月25日に打ち上げられ、2022年7月から科学観測を開始した。
ハッブル宇宙望遠鏡の後継として、赤外線領域での観測能力は桁違いに高い。宇宙の始まりに近い130億年以上前の光を捉え、まさに「タイムマシン」として宇宙の歴史を解き明かしている。
JWSTの基本スペック
- 主鏡直径: 6.5m(ハッブルの2.5倍)
- 観測波長: 0.6〜28.3マイクロメートル(近赤外線〜中間赤外線)
- 軌道位置: 太陽-地球のL2点(地球から約150万km)
- 運用温度: -233℃(サンシールドの日陰側)
- 設計寿命: 10年以上(推進剤は20年分搭載)
主要な発見
1. 最遠方銀河の記録更新
JWSTは運用開始直後から、次々と最遠方銀河の記録を更新した。2022年に発見されたJADES-GS-z14-0は、ビッグバンからわずか約2.9億年後の銀河だ。
驚くべきことに、この初期宇宙の銀河は予想よりも大きく、明るく、成熟していた。従来の銀河形成理論では説明が難しい発見であり、宇宙の初期進化に関する理論の見直しが進んでいる。
2. 系外惑星の大気分析
JWSTは系外惑星のトランジット(惑星が恒星の前を通過する現象)を観測し、惑星の大気成分を詳細に分析できる。
WASP-39b: ガス惑星の大気からCO2を初めて直接検出。さらに、光化学反応で生成された二酸化硫黄も発見した。
TRAPPIST-1系: 地球サイズの惑星7個を持つこの系で、各惑星の大気の有無を調査中。TRAPPIST-1bとcには厚い大気がない可能性が示唆された。
K2-18b: ハビタブルゾーンにある亜海王星型惑星で、大気中にメタンとCO2を検出。生命活動で生成される可能性のあるジメチルスルフィド(DMS)の痕跡も報告されたが、確認には追加観測が必要だ。
3. 星形成領域の詳細撮影
JWSTが撮影した「創造の柱」(わし星雲M16内の柱状構造)は、ハッブルの画像を遥かに凌ぐ詳細さだ。赤外線で観測することで、塵に隠された新生星や原始惑星系円盤が明瞭に写し出された。
カリーナ星雲の「宇宙の断崖」も、JWSTの代表的な画像だ。星が誕生する瞬間の現場を、これまでにない解像度で捉えている。
4. 初期宇宙のブラックホール
JWSTは、宇宙初期に存在する「あまりに巨大な」超大質量ブラックホールを複数発見した。ビッグバンから数億年しか経っていない時期に、太陽の数億倍のブラックホールが存在することは、従来の理論では説明が困難だ。
ブラックホールの「種」がどのように形成されたのか、宇宙物理学の根本的な問いが突きつけられている。
5. 太陽系天体の観測
JWSTは遠い宇宙だけでなく、太陽系の天体も観測している。
- 木星: 赤外線でオーロラ、薄いリング、衛星を詳細に撮影
- 土星の衛星エンケラドゥス: 水蒸気の噴出プルームを観測。地球の40倍の範囲に水蒸気が広がっていることを発見
- 天王星: リングと複数の衛星を赤外線で鮮明に撮影
JWSTの技術的革新
サンシールド
テニスコートほどの大きさの5層のサンシールドが、太陽光・地球光・月光を遮断し、望遠鏡を-233℃まで冷却する。この極低温が赤外線観測に不可欠だ。
セグメントミラー
6.5mの主鏡は18枚の六角形セグメントで構成されている。打ち上げ時は折り畳まれ、宇宙で展開後にナノメートル精度で調整される。
NIRCam・MIRI
近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)が主要観測装置。MIRIには能動冷却システムが搭載され、-266℃まで冷却される。
まとめ
JWSTは運用開始から3年で、天文学の複数の分野に革命をもたらした。最遠方銀河の発見は宇宙論を、系外惑星の大気分析は惑星科学を、初期ブラックホールの発見はブラックホール形成理論を、それぞれ根本から問い直している。
設計寿命10年に対し、推進剤は20年分あるとされる。今後さらに多くの発見がもたらされるだろう。
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