宇宙空間の温度は何度か。地球上では空気が熱を運ぶため、温度を肌で感じることができる。しかし宇宙空間はほぼ完全な真空であり、空気がない。この「何もない空間」に温度という概念は成り立つのか。結論からいえば、宇宙空間には宇宙マイクロ波背景放射(CMB)による温度があり、その値は約-270℃(約2.725K)だ。
この記事は「宇宙の謎 完全ガイド」の詳細記事です。
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)と宇宙の温度
宇宙空間の「温度」を決めているのは、宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background: CMB)だ。CMBは約138億年前のビッグバンの名残として宇宙全体に満ちている電磁波で、1965年にアメリカのアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが偶然発見した。
CMBの温度は約2.725K(ケルビン)、摂氏に換算すると約**-270.4℃**となる。この温度は宇宙のどの方向を観測してもほぼ均一であり、宇宙がかつて超高温・高密度の状態にあったことを示す直接的な証拠とされている。
絶対零度(0K = -273.15℃)まであとわずか約2.7度。宇宙空間は、物理的にありえるほぼ最低の温度に近い環境だといえる。
真空と熱伝導 --- 3つの熱の伝わり方
宇宙空間の温度を理解するには、熱がどのように伝わるかを知る必要がある。熱の伝わり方には3種類ある。
伝導(でんどう)
物質の中を、分子の振動が隣の分子に伝わることで熱が移動する現象。金属の棒の一端を火で熱すると、もう一端も熱くなるのがこの原理だ。宇宙空間にはほとんど物質がないため、伝導による熱移動はほぼ起きない。
対流(たいりゅう)
液体や気体が温度差によって循環し、熱を運ぶ現象。鍋の湯が底から温まり、全体が熱くなるのは対流の働きだ。宇宙空間には空気も液体もないため、対流は発生しない。
輻射(ふくしゃ)
電磁波(赤外線など)によって熱が伝わる現象。太陽の光が真空の宇宙空間を通って地球を温めるのは、この輻射の仕組みだ。宇宙空間で唯一機能する熱伝達手段であり、宇宙船や人工衛星の温度制御はすべてこの輻射を管理することで行われている。
| 伝達方式 | 媒質が必要か | 宇宙空間で機能するか | 身近な例 |
|---|---|---|---|
| 伝導 | 必要(固体) | ほぼ機能しない | 熱した金属棒 |
| 対流 | 必要(液体・気体) | 機能しない | 鍋の湯の循環 |
| 輻射 | 不要 | 機能する | 太陽光による加熱 |
ISS(国際宇宙ステーション)の温度環境
ISSは地球の上空約400kmを周回しており、約90分で地球を1周する。そのため約45分ごとに太陽光が当たる「日向」と、地球の影に入る「日陰」を繰り返す。この環境がISS外壁に極端な温度差を生む。
ISS外壁の温度
ISSの外壁温度は、太陽光の当たる面で約**+121℃、影の面で約-157℃**に達する。その差は約278℃にもなる。NASAの資料によれば、この急激な温度変化が90分ごとに繰り返されるため、ISS外壁の素材には高い耐熱性と耐寒性が求められる。
ISS内部の温度
一方、ISS内部は宇宙飛行士が快適に生活・作業できるよう、温度が約**21〜24℃**に維持されている。これを実現しているのが能動的熱制御システム(Active Thermal Control System: ATCS)だ。ATCSはアンモニアを冷媒として使い、内部で発生した熱を外部のラジエーターから宇宙空間に輻射で放出する。
| 場所 | 温度 | 備考 |
|---|---|---|
| ISS外壁(日向) | 約+121℃ | 太陽光の直射を受ける面 |
| ISS外壁(日陰) | 約-157℃ | 地球の影に入った面 |
| ISS内部 | 21〜24℃ | ATCSで温度制御 |
| 宇宙空間(CMB) | 約-270℃ | 宇宙マイクロ波背景放射 |
月面の温度 --- 大気がないことの影響
月には大気がほとんど存在しない。そのため地球のように大気が熱を蓄えたり分散させたりする効果がなく、太陽光が当たるかどうかで温度が極端に変わる。
月面の昼側の温度は最大で約**+127℃に達する。一方、夜側は約-173℃**まで下がる。昼夜の温度差は約300℃にもなり、地球上のどの環境よりもはるかに過酷だ。
月の1日(自転周期)は地球の約29.5日に相当するため、約2週間の灼熱の昼と約2週間の極寒の夜が交互に続く。アポロ計画で月面に設置された機器は、この極端な温度変化に耐えられるよう設計されていた。
月の極域にあるクレーターの永久影領域(太陽光が一切届かない場所)では、温度が約**-248℃**にまで下がることが観測されている。この極低温環境に水の氷が存在する可能性が指摘されており、将来の月面基地における水資源として注目されている。
火星の温度環境
火星は太陽から地球の約1.5倍の距離にあり、薄い大気(地球の約1%の気圧)を持つ。火星の平均表面温度は約**-60℃で、赤道付近の夏には最大約+20℃まで上がることもあるが、極地では-140℃**近くまで下がる。
火星の大気は非常に薄いため、地球のような効率的な熱の保持ができない。ただし完全な真空ではないため、わずかながら対流による熱移動も存在する。NASAの火星探査機が記録したデータによれば、火星の1日の温度変化は場所によって100℃以上に達する。
| 天体 | 最高温度 | 最低温度 | 温度差 | 大気の有無 |
|---|---|---|---|---|
| 地球 | 約+57℃ | 約-89℃ | 約146℃ | あり(厚い) |
| 月 | 約+127℃ | 約-173℃ | 約300℃ | ほぼなし |
| 火星 | 約+20℃ | 約-140℃ | 約160℃ | あり(薄い) |
| 宇宙空間 | --- | 約-270℃ | --- | なし |
宇宙空間で人体はどうなるか
宇宙空間に保護なしで放り出された場合、映画のように瞬間的に凍りつくことはない。真空では熱を伝える空気がないため、体温は輻射でしかゆっくり失われない。
実際に問題となるのは温度よりも気圧だ。宇宙空間の真空環境では体内の液体が沸騰し始め(エブリズム)、約10〜15秒で意識を失う。NASAの記録では、1966年に真空チャンバーの事故で宇宙服内の気圧が急低下した技術者が約14秒で意識を失ったが、加圧後に回復した事例がある。
よくある質問(FAQ)
Q: 宇宙空間の温度が-270℃なら、太陽の近くでも寒いのか?
太陽に近づくほど太陽からの輻射エネルギーが強くなるため、物体の表面温度は高くなる。ただし、影に入れば温度は急激に下がる。太陽光を受ける面と受けない面で極端な温度差が生じるのが宇宙空間の特徴だ。
Q: 宇宙ステーションの外で作業する宇宙飛行士はどう温度を管理しているか?
船外活動(EVA)用の宇宙服には、能動的な温度調節機能が備わっている。液体冷却換気衣(Liquid Cooling and Ventilation Garment: LCVG)が体から発生する熱を水の循環で吸収し、適切な体温を維持する。宇宙服の外層は多層断熱材で覆われ、太陽光の輻射や宇宙空間への熱放出を制御している。
Q: 宇宙で最も温度が低い場所はどこか?
自然環境としてはブーメラン星雲が知られており、その温度は約1K(-272℃)とCMBよりも低い。急速に膨張するガスが断熱冷却されることで、宇宙の平均温度よりさらに低温になっている。
Q: なぜ宇宙空間は太陽があるのに暗くて冷たいのか?
太陽は輻射でエネルギーを放出しているが、そのエネルギーを受け取る物質(大気や地面)がなければ「温かさ」として感じられない。宇宙空間はほぼ真空のため、光は通過するだけで空間自体を温めない。地球が温かいのは、大気と地表が太陽光を吸収し、熱として蓄えているからだ。