人類最遠の人工物
ボイジャー1号と2号は、1977年に打ち上げられたNASAの惑星探査機。木星・土星(2号はさらに天王星・海王星)のフライバイを成功させた後、太陽系の外に向かって飛び続けている。
打ち上げから49年目を迎えた現在も通信を維持しており、人類が最も遠くに送り出した人工物である。
現在地(2025年時点)
| 探査機 | 太陽からの距離 | 地球からの通信時間(片道) | 速度 |
|---|---|---|---|
| ボイジャー1号 | 約166天文単位(約248億km) | 約23時間 | 秒速17.0km |
| ボイジャー2号 | 約138天文単位(約207億km) | 約19時間 | 秒速15.3km |
1天文単位(AU)は地球と太陽の平均距離(約1.5億km)。ボイジャー1号は地球から太陽までの距離の166倍の場所にいる。
太陽圏の構造とボイジャーの旅路
| 領域 | 距離 | 特徴 |
|---|---|---|
| 太陽圏(ヘリオスフィア) | 〜約120AU | 太陽風が支配する領域 |
| ヘリオポーズ | 約120AU | 太陽風と星間物質の境界 |
| 恒星間空間 | 120AU〜 | 星間物質が支配する領域 |
| オールトの雲 | 約2,000〜100,000AU | 彗星の起源。通過に数万年 |
ボイジャー1号の太陽圏離脱
2012年8月25日、ボイジャー1号が太陽圏を離脱し恒星間空間に到達したことがNASAから発表された。プラズマ密度の急激な変化が観測され、太陽風の領域から星間物質の領域に入ったことが確認された。
ボイジャー2号の太陽圏離脱
2018年11月5日、ボイジャー2号も太陽圏を離脱。ボイジャー2号はプラズマ科学装置(PLS)が稼働していたため、ヘリオポーズ通過時の物理データをより詳細に取得できた。
通信の仕組み
ボイジャーとの通信には、NASAの**ディープスペースネットワーク(DSN)**が使われている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 送信機出力 | 約23ワット(LED電球1個分程度) |
| 受信アンテナ | DSN 70mパラボラアンテナ(米国、スペイン、オーストラリア) |
| 通信速度 | ボイジャー1号:約160bps |
| 周波数 | Xバンド(8.4GHz)とSバンド(2.3GHz) |
23ワットの信号が248億km先から届く。地球到達時の信号強度は10の-16乗ワット程度で、極めて微弱。DSNの巨大アンテナと高感度受信機でかろうじて捉えている。
電力問題 — 残りの寿命
ボイジャーの電源は放射性同位体熱電気転換器(RTG)。プルトニウム238の崩壊熱で発電する。
| 年 | 出力(推定) |
|---|---|
| 1977年(打ち上げ時) | 約470ワット |
| 2025年 | 約220ワット |
| 2030年頃 | 約200ワット以下 |
電力の低下に伴い、NASAは段階的に計器のスイッチを切って延命を図ってきた。2025年時点で稼働している科学機器は数台のみ。
推定ミッション終了時期: 2030年代前半。それ以降は通信を維持するための電力すら確保できなくなる可能性が高い。
2024年の通信トラブルと復旧
2023年末からボイジャー1号は解読不能なデータを送信し始めるトラブルが発生した。原因はフライトデータサブシステム(FDS)のメモリ破損。
NASAのジェット推進研究所(JPL)のチームは、47年前に設計されたシステムの残存ドキュメントを頼りに修復コマンドを作成。2024年4月に部分復旧に成功し、11月にはXバンド送信機の再作動にも成功して科学データの収集を再開した。
片道23時間の通信遅延の中での修復作業は、「人類最遠のシステム管理」と呼ぶにふさわしい偉業だった。
ボイジャーのゴールデンレコード
両機にはゴールデンレコードが搭載されている。地球の生命と文化を伝えるために、55言語の挨拶、音楽、自然の音、写真が金メッキの銅板レコードに収録されている。
ボイジャー1号が最も近い恒星に接近するのは約4万年後(グリーゼ445、当時約1.6光年の距離)。ゴールデンレコードは数十億年にわたって宇宙を漂い続ける。
ボイジャーが教えてくれたこと
| 発見 | 探査機 |
|---|---|
| 木星の衛星イオの火山活動 | ボイジャー1号 |
| エウロパの氷の下の海の可能性 | ボイジャー2号 |
| 土星の環の詳細構造 | ボイジャー1号・2号 |
| 天王星の自転軸の横倒し | ボイジャー2号 |
| 海王星の大暗斑 | ボイジャー2号 |
| トリトンの間欠泉 | ボイジャー2号 |
| 太陽圏の境界構造 | ボイジャー1号・2号 |
よくある質問
Q: ボイジャーを追い越す探査機は現れる?
A: 現時点ではボイジャー1号を追い越す速度で飛行中の探査機はない。パイオニア10号・11号、ニューホライズンズも太陽系外に向かっているが、速度はボイジャー1号より遅い。将来的にソーラーセイルや核パルス推進などの技術が実用化されれば、より高速な恒星間探査機が実現する可能性がある。
Q: ボイジャーは他の恒星系に到達する?
A: ボイジャー1号が最も近い恒星に接近するのは約4万年後だが、その恒星系に「到達」するわけではなく、1.6光年の距離をかすめるように通過するだけ。恒星間空間は極めて広大で、ボイジャーの速度(秒速17km)では他の恒星系への到達は数万〜数十万年の時間を要する。
Q: 通信が途絶えた後、ボイジャーはどうなる?
A: 通信が途絶えても機体は飛び続ける。宇宙空間には空気抵抗がないため、ボイジャーは太陽系(銀河系)の重力場の中を半永久的に漂い続ける。ゴールデンレコードは数十億年にわたって保存されると推定されている。
ボイジャー以降の恒星間探査構想
ボイジャーの後を継ぐ恒星間探査機の構想がいくつか提案されている。
| 構想 | 提案者 | 特徴 |
|---|---|---|
| Breakthrough Starshot | ユーリ・ミルナー | レーザー駆動の超軽量セイルを光速の20%まで加速。アルファ・ケンタウリまで約20年 |
| Interstellar Probe | APL/NASA | 太陽のスイングバイで加速。1,000AUまで50年で到達 |
| TAU(Thousand Astronomical Units) | NASA JPL | 核パルス推進で1,000AUに50年で到達する構想(未実現) |
現時点では構想段階であり、実際に開発が進んでいるのはBreakthrough Starshot程度。恒星間探査は21世紀後半以降の課題となる。
まとめ
ボイジャー1号・2号は打ち上げから49年目を迎え、太陽から166AU・138AU離れた恒星間空間を飛行中。電力低下により2030年代前半にミッション終了が見込まれるが、両機は人類が太陽系の果てとその先について知るための唯一の直接観測手段であり続けている。
参考としたサイト
- ボイジャー1号と2号は今どこに? — sorae
- ボイジャー1号、2号の現在地 — アストロピクス
- 太陽圏を越え、星々の海を飛び続ける探査機「ボイジャー」 — TELESCOPE magazine
- ボイジャー1号 — Wikipedia