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Artemis II完全ガイド — SLSロケット・Orion宇宙船の仕様から打ち上げまでの全記録【2026年3月最新】


Artemis IIとは — 53年ぶりの有人月飛行

Artemis II(アルテミスII)は、NASAが主導する有人月探査計画「Artemis計画」の第2弾ミッション。4名の宇宙飛行士がOrion(オリオン)宇宙船に搭乗し、月を周回して地球に帰還する約10日間の飛行を行う。月面への着陸は行わない。

有人での月近傍飛行はアポロ17号(1972年12月)以来53年ぶりとなり、人類の月への回帰を象徴するミッションとして世界的な注目を集めている。

出典: Artemis II: NASA’s First Crewed Lunar Flyby in 50 Years — NASA公式


現在のステータス(2026年3月19日時点)

ロールアウト — 3月19日に発射台へ移動開始

NASAは2026年3月19日夜(米東部時間20時)に、SLSロケットとOrion宇宙船をケネディ宇宙センターのVAB(Vehicle Assembly Building)から39B発射台へ移動させる作業を開始した。VABから発射台までの移動には約12時間を要する。

当初の予定は3月19日だったが、飛行中断システム(Flight Termination System)の電気ハーネスに不具合が発見され、交換作業が行われた。その後、ヘリウム流路の封止部にも問題が確認されたが、いずれも修理が完了している。

出典: NASA Finalizes Artemis II Rollout, Crew Begins Quarantine — NASA(2026年3月18日)

打ち上げ予定日

優先順位日付備考
第1候補2026年4月1日現在のターゲット
バックアップ4月2日〜6日連日のウィンドウあり
予備4月30日月の位置関係による次の機会

Flight Readiness Review(飛行準備審査)は3月12日に完了し、全項目で**「Go」**の判定が出ている。クルーは3月18日から打ち上げ前の隔離(健康管理のための検疫)に入った。

出典: Artemis II Flight Readiness Polls Go to Proceed Toward April Launch — NASA(2026年3月12日) 出典: NASA sets launch date for historic moon mission — CNN(2026年3月12日)


クルーメンバー — 4名の宇宙飛行士

役割名前所属特記事項
コマンダーReid Wiseman(リード・ワイズマン)NASA海軍テストパイロット出身、ISS長期滞在経験
パイロットVictor Glover(ビクター・グローバー)NASA深宇宙に到達する初の有色人種
ミッションスペシャリストChristina Koch(クリスティーナ・コック)NASA深宇宙に到達する初の女性、ISS連続滞在記録保持者(328日)
ミッションスペシャリストJeremy Hansen(ジェレミー・ハンセン)CSA(カナダ宇宙庁)月近傍に到達する初の米国外の宇宙飛行士

このクルー構成は、宇宙探査の多様性において複数の歴史的な「初」を達成する。カナダは国際パートナーとしてArtemis計画にロボットアーム技術(Canadarm3)で貢献しており、その見返りとしてハンセン飛行士の搭乗枠が確保された。

出典: Artemis II — Wikipedia


ミッション概要 — 自由帰還軌道による月周回

飛行プロファイル

Artemis IIは**自由帰還軌道(Free-Return Trajectory)**を採用する。これはアポロ13号でも使われた軌道で、月の重力を利用して自然に地球へ帰還できるため、エンジン噴射が不要。万一の推進系トラブル時にも帰還可能な、安全性の高い設計だ。

ミッションの流れ:

  1. 打ち上げ — SLSロケットでフロリダ州ケネディ宇宙センターから発射
  2. 地球周回 — 地球低軌道で約2周、Orionの各システムを点検
  3. TLI(月遷移軌道投入) — ICPS(暫定極低温推進段)を点火し、月へ向かう軌道に投入
  4. 月フライバイ — 月の裏側を通過。月面から約8,900kmまで接近
  5. 地球帰還 — 月の重力を利用して地球へ戻る
  6. 大気圏再突入・着水 — 太平洋にパラシュートで着水

総飛行時間は約10日間、地球からの最大距離は約38万kmに達する。


SLSロケットの仕様

SLS(Space Launch System)はNASAが開発した超大型ロケットで、現役で世界最大の打ち上げ能力を持つ。

項目Block 1仕様
全高約98m(Orion含む)
打ち上げ推力約3,990トン(39.1MN)
低軌道打ち上げ能力95トン
月遷移軌道投入能力27トン以上
コアステージエンジンRS-25 × 4基(スペースシャトル主エンジンの派生型)
固体ロケットブースター5セグメントSRB × 2本
上段ICPS(暫定極低温推進段、RL-10エンジン1基)
推進剤液体水素 + 液体酸素(コアステージ)

RS-25エンジンはスペースシャトルのメインエンジンを改修したもので、NASAの有人飛行における長い実績がある。SLSの打ち上げ推力はサターンV(アポロ計画)の約3,400トンを上回り、史上最大級である。


Orion宇宙船の仕様

Orion(オリオン)は深宇宙での有人飛行に対応する宇宙船で、以下の2つのモジュールで構成される。

クルーモジュール(CM)

  • 製造: Lockheed Martin(米国)
  • 直径: 約5.0m
  • 居住容積: 約9m³
  • 最大搭乗人数: 4名(Artemis II構成)
  • ヒートシールド直径: 5.0m(人類が建造した最大のヒートシールド)
  • 再突入速度: 秒速約11km(マッハ32相当)

ヨーロッパサービスモジュール(ESM)

  • 製造: Airbus Defence and Space(ESA提供)
  • 主エンジン: AJ10-190(スペースシャトルOMS由来)
  • 太陽電池パネル: 4枚(全展開時の翼幅約19m)
  • 電力: 約11kW
  • 役割: 推進・電力供給・熱制御・生命維持用の水と空気の貯蔵

Orionは国際協力の成果物であり、欧州(ESA)がサービスモジュールを提供し、カナダ(CSA)がクルー枠を得るという協力体制が構築されている。


Artemis Iとの比較 — 何が変わったか

2022年11月に実施されたArtemis I(無人テスト飛行)の結果を踏まえ、Artemis IIでは複数の改善が施されている。

Artemis Iの成果と課題

項目Artemis I実績
飛行期間25.5日間
月最接近距離約130km
地球からの最大距離約432,210km(有人宇宙船の最遠記録)
大気圏再突入速度秒速約11km
結果太平洋に着水、ミッション成功

Artemis Iは全体としては成功だったが、ヒートシールドの予期せぬ損傷が最大の課題として浮上した。再突入時にヒートシールドの表面素材(Avcoat)が100か所以上で剥離する現象が確認された。

ヒートシールド問題の原因と対策

NASAの調査の結果、Avcoat内部で発生したガスが適切に放出されず、素材が割れて剥離したことが原因と判明した。

Artemis IIでの対策:

  • ヒートシールドの基本設計は変更しない(大規模な再設計は時間的に困難)
  • 代わりに再突入軌道を修正し、大気圏内の飛行距離を短縮
  • これにより、問題が発生した温度域での曝露時間を低減
  • NASAは「Artemis IIでは同じ問題は起きない」と判断

出典: The Artemis 1 moon mission had a heat shield issue. Here’s why NASA doesn’t think it will happen again on Artemis 2 — Space.com 出典: NASA Identifies Cause of Artemis I Orion Heat Shield Char Loss — NASA

Artemis I vs Artemis II 比較表

Artemis IArtemis II
乗員なし(無人)4名
飛行期間25.5日約10日
軌道月周回軌道(DRO)自由帰還軌道
月最接近距離約130km約8,900km
ヒートシールドAvcoat(損傷あり)同一設計+軌道修正で対策
目的SLS・Orionの無人統合テスト有人での全システム検証

Artemis III以降の計画 — 月面着陸から長期滞在へ

NASAの戦略転換(2026年2月発表)

NASAは2026年2月27日、Artemis計画の大幅な見直しを発表した。従来のスケジュール重視から、「より達成可能な(more achievable)」持続可能な月面探査へと方針を転換した。

Artemis III — 月面着陸から軌道テストに変更

最大の変更点はArtemis IIIの内容変更だ。当初はArtemis IIIで有人月面着陸を予定していたが、以下の理由で計画が修正された。

  • SpaceX Starship HLS(月面着陸船)の開発遅延
  • NASA予算の24%削減提案(FY2026: 248億ドル → 188億ドル)
  • 技術的な複雑さと現実的なスケジュールとの乖離

新計画では、Artemis III(2027年中盤予定)は月面着陸を行わず、地球低軌道でSpaceX Starship HLSやBlue Origin Blue Moonとのランデブー・ドッキングテストを実施する。実際の有人月面着陸はArtemis IV(2028年以降)に先送りされた。

出典: Starship moon landing canceled, Artemis III altered for low-orbit testing — MyRGV.com(2026年3月2日)

全体スケジュール(2026年3月時点)

ミッション内容予定時期
Artemis I無人月周回テスト(完了)2022年11月
Artemis II有人月周回(着陸なし)2026年4月
Artemis III低軌道でのランデブー・ドッキングテスト2027年中盤
Artemis IV有人月面着陸2028年以降
Artemis VII日本のルナクルーザー使用2031年

日本人宇宙飛行士2名のArtemis計画への参加は、2024年の日米首脳会談で合意済み。


Gateway計画の行方 — 中止方針とその影響

Gatewayとは

Gateway(ゲートウェイ)は月周回軌道上に建設予定だった小型宇宙ステーション。月面着陸の中継拠点として、Artemis計画の重要なインフラとなるはずだった。

中止方針

2025年5月、トランプ政権のFY2026予算案でGateway計画の中止が提案された。理由は以下の通り。

  • コスト増大 — 当初見積もりからの大幅な超過
  • 商業的代替手段 — 民間企業のソリューションでの代替可能性
  • 優先順位の変更 — 直接的な月面着陸を優先

2026年3月時点で、NASAの公式文書からGatewayへの言及が削除されるなど、事実上の中止に向かっている。ただし、国際パートナー(ESA、JAXA、CSA)がGatewayのモジュール開発を進めていたため、外交的な調整が必要な状況にある。

出典: Lunar Gateway — Wikipedia 出典: Beyond Artemis 2: NASA pursuing a ‘more achievable’ path back to the moon — Space.com(2026年3月18日)


まとめ — Artemis IIが持つ意味

Artemis IIは単なるテスト飛行ではない。53年ぶりに人類を月の近傍に送り返す歴史的なミッションであり、以下の意味を持つ。

  1. 有人での月飛行能力の復活 — アポロ計画以来の空白を埋める
  2. Orion宇宙船の有人検証 — 生命維持システム、通信、航法の実証
  3. ヒートシールド対策の検証 — Artemis Iで発生した問題への対処が有人環境で機能するか
  4. 国際協力の実績 — ESAのサービスモジュール、CSAのクルー参加
  5. 後続ミッションの前提条件 — Artemis IIの成功がArtemis III以降の判断基準となる

NASAの予算削減やGateway中止など逆風もあるが、Artemis IIの打ち上げが成功すれば、人類の月面回帰に向けた大きな一歩となる。2026年4月1日(予定)の打ち上げに注目したい。


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