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Artemis II ミッションタイムライン — 打ち上げから帰還まで10日間の全行程【2026年版】


画像: NASAのArtemis II SLSロケットとOrion宇宙船が発射台39Bへロールアウトされる様子。引用元: NASA

Artemis II --- 10日間で月を周回して帰還するミッション

Artemis IIは、NASAのArtemis計画における初の有人飛行ミッションだ。4名の宇宙飛行士がOrion(オリオン)宇宙船に搭乗し、月を周回して地球に帰還する。月面には着陸しないが、有人での月近傍飛行はアポロ17号(1972年)以来53年ぶりとなる歴史的なミッションである。

ここでは、打ち上げから着水までの約10日間のミッションを時系列で詳しく解説する。


使用機体

ミッションを理解するために、まず使用される機体を整理しておく。

機体正式名称役割
SLS Block 1Space Launch System Block 1打ち上げロケット。全高98m、推力3,991トン
ICPSInterim Cryogenic Propulsion StageSLS上段。月遷移軌道投入(TLI)を担当
Orion MPCVMulti-Purpose Crew Vehicle有人宇宙船。クルー4名が搭乗
ESMEuropean Service ModuleOrionのサービスモジュール。ESA(欧州宇宙機関)が開発。推進・電力・熱制御を担当

SLS Block 1は、NASAがスペースシャトルの技術を発展させて開発した超大型ロケットだ。固体ロケットブースター2基とRS-25エンジン4基(スペースシャトルのメインエンジンの改良型)を搭載し、地球低軌道に95トンの打ち上げ能力を持つ。

Orion宇宙船はロッキード・マーティンが製造する有人カプセルで、乗員モジュールとサービスモジュール(ESM)で構成される。ESMはエアバス・ディフェンス・アンド・スペースが製造しており、ATV(欧州補給機)の技術をベースに開発された。太陽電池パネルによる発電、メインエンジン(AJ10-190)による軌道変更、そして生命維持に必要な水・空気の管理を行う。


ミッションタイムライン

Day 1: 打ち上げとTLI(月遷移軌道投入)

ミッションはフロリダ州ケネディ宇宙センターの39B発射台から始まる。

T-0: 打ち上げ

SLS Block 1ロケットが点火し、約880万ポンド(約3,991トン)の推力で上昇を開始する。固体ロケットブースター(SRB)の燃焼時間は約2分間。SRB分離後はコアステージのRS-25エンジン4基のみで飛行を続け、打ち上げから約8分後にコアステージが分離される。

T+約2時間: 地球周回とシステム点検

ICPS(上段)とOrionが結合した状態で地球を約2周する。この間にOrion宇宙船の各システム --- 生命維持装置、通信システム、航法装置、推進系 --- の動作確認を行う。Artemis IIは有人飛行としてOrionの初号機であり、この点検フェーズは極めて重要だ。

T+約4時間: TLI(Trans-Lunar Injection)

ICPSのRL-10Bエンジンを点火し、Orionを月へ向かう軌道に投入する。TLI噴射は約18分間。これによりOrionは秒速約10.9kmまで加速され、地球の重力圏を離脱して月への旅路に就く。TLI完了後、ICPSはOrionから分離される。


Day 2-3: 月への巡航(アウトバウンド・トランジット)

TLI後、Orion宇宙船は約38万km先の月に向かって巡航する。この2日間で実施される主な作業は以下のとおり。

作業内容
中間軌道修正(MCC)ESMのメインエンジンを短時間噴射し、軌道を微調整
Orion手動操縦テストクルーによるOrionの手動操縦性能の検証
通信テストDeep Space Network(DSN)との通信品質確認
放射線計測深宇宙環境での放射線量のリアルタイム計測
生命維持システム監視空気・水・温度の管理システムの長時間動作検証

地球低軌道(高度約400km)では地球の磁気圏に守られているが、月への巡航中はヴァン・アレン帯を通過し、その後は惑星間空間の放射線環境にさらされる。Artemis IIでは、クルーの被ばく線量をリアルタイムでモニタリングし、Orionの放射線シールド性能を実環境で検証する。


Day 4: 月フライバイ(最接近)

ミッション最大のハイライトとなる日だ。

月の裏側を通過

Orion宇宙船は月の裏側を通過し、月面から約8,900kmの距離まで接近する。月の裏側通過中は約30分間にわたって地球との通信が途絶する。アポロ計画と同様、クルーは自分たちの判断だけで宇宙船を運用する時間帯を経験することになる。

自由帰還軌道

Artemis IIは自由帰還軌道(Free-Return Trajectory)を採用している。これは月の重力を利用して、エンジン噴射なしで自然に地球へ帰還できる軌道設計だ。アポロ13号(1970年)で酸素タンク爆発事故が発生した際、この軌道のおかげでクルーは地球に帰還できた。

月フライバイ時の速度は秒速約0.9km。月の重力によってOrionの軌道は大きく曲げられ、地球へ向かう帰還軌道に乗る。

クルーが目にする光景

月フライバイ中、クルーは船内の窓から月面を間近に観察できる。地球は月の向こう側に沈み、月の地平線から再び昇る「アースライズ」を目撃する可能性がある。アポロ8号のクルーが1968年に撮影した歴史的な「アースライズ」写真と同様の光景を、53年ぶりに人間の目で見ることになる。


Day 5-8: 地球への帰還(インバウンド・トランジット)

月フライバイ後、Orionは地球に向かって約4日間の帰還飛行を行う。

帰還フェーズの主な作業

  • 軌道修正噴射(必要に応じてESMのエンジンを使用)
  • Orion宇宙船の全システム長時間耐久テスト
  • 科学データの収集と地球への送信
  • 再突入に向けた宇宙船の準備作業
  • ヒートシールドの状態監視

帰還飛行中、Orionは地球からの距離が徐々に縮まり、通信遅延も短くなっていく。月近傍では片道約1.3秒の通信遅延があったが、地球接近に伴いほぼリアルタイムの通信に戻る。

なお、Artemis I(無人ミッション、2022年)では帰還時にヒートシールドの炭化層が想定と異なる剥離パターンを示したことが報告されている。NASAはこの問題を詳細に分析し、Artemis IIのOrionには改良されたヒートシールドが搭載されている。


Day 9-10: 大気圏再突入と着水

ミッション最終フェーズ。クルーにとって最も過酷な段階だ。

サービスモジュール(ESM)分離

再突入の数時間前に、ESMをOrion乗員モジュールから分離する。ESMは大気圏で燃え尽きる設計だ。分離後、乗員モジュールは自らのRCSスラスター(姿勢制御エンジン)のみで姿勢を制御する。

大気圏再突入

Orionは秒速約11km(マッハ約32)という超高速で地球大気圏に突入する。これはISS帰還時のソユーズやCrew Dragon(秒速約7.8km)よりもはるかに高速だ。月からの帰還軌道は地球低軌道からの帰還よりもエネルギーが大きいため、再突入時の発熱も激しくなる。

項目Artemis II (Orion)ISS帰還 (Crew Dragon)
再突入速度秒速約11km秒速約7.8km
最大温度約2,760度C約1,900度C
減速G最大約4G最大約3.5G
着水方法パラシュート(太平洋)パラシュート(大西洋/メキシコ湾)

ヒートシールドは約2,760度Cの高温に耐える必要がある。Orionが採用するAVCOAT(アブレーション型ヒートシールド)は、高温で表面が徐々に溶融・蒸発することで熱を吸収する仕組みだ。

スキップ再突入

Artemis IIのOrionは「スキップ再突入(Skip Entry)」と呼ばれる手法を採用する。大気圏に一度突入した後、いったん大気圏外に跳ね出し(スキップし)、再度突入する。これにより再突入時の最大加速度(G力)を軽減し、クルーの身体的負担を下げる。また、着水地点の精度も向上する。Artemis I(無人)でこの手法が初めて実証された。

パラシュート展開と着水

高度約7,600mで2基のドローグシュートが展開し、高度約3,000mで3基のメインパラシュート(直径各35m)が開く。最終降下速度は時速約32km。太平洋上の所定海域に着水する。

着水後、米海軍の回収チームがOrionカプセルとクルーの回収作業を行う。USS回収艦がカプセルをウェルデッキに収容し、クルーは医療チェックを受けた後にヘリコプターで陸上へ移送される。


ミッション全体の意義

Artemis IIは単なる月周回飛行ではなく、以下の技術検証を目的としている。

  • Orion宇宙船の有人環境での全システム検証
  • 深宇宙での生命維持装置の長時間運用テスト
  • ヒートシールドの有人条件での再突入性能確認
  • Deep Space Networkとの長距離通信検証
  • 深宇宙での放射線環境のリアルタイム計測

これらのデータは、続くArtemis III(有人月面着陸)の計画に直接反映される。Artemis IIの成功なくして、人類の月面回帰は実現しない。

ミッションの詳細な技術仕様についてはArtemis II完全ガイドを参照してほしい。

よくある質問(FAQ)

Q. Artemis IIのミッション期間は何日間ですか?

Artemis IIは打ち上げから帰還まで約10日間のミッションです。地球周回軌道での確認作業を経て、TLI(月遷移軌道投入)で月に向かい、月を周回した後、自由帰還軌道で地球に戻ります。

Q. Artemis IIで使用されるロケットと宇宙船は何ですか?

打ち上げロケットはNASAのSLS(Space Launch System)で、全長98m、推力約3,990トンの超大型ロケットです。クルーが搭乗する宇宙船はOrion(オライオン)で、最大4名を乗せて深宇宙ミッションに対応できる設計です。

Q. Artemis IIの成功は何につながりますか?

Artemis IIの成功はArtemis III(有人月面着陸)の実現に直結します。Orion宇宙船の生命維持装置、ヒートシールド、深宇宙通信などを有人条件で検証し、そのデータが月面着陸ミッションの計画に反映されます。


参考としたサイト:

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