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宇宙飛行士になるには? — JAXA・NASAの条件・選抜プロセス・訓練内容を徹底解説


宇宙飛行士とは

宇宙飛行士(Astronaut)は、宇宙空間で活動する専門職である。国際宇宙ステーション(ISS)での科学実験、船外活動(EVA)、宇宙機の操縦、さらには月面探査まで、その任務は多岐にわたる。

2026年現在、人類の宇宙飛行経験者は累計で約700名。国家の宇宙機関に所属する飛行士だけでなく、民間企業のミッションで宇宙に到達する人も増えている。

宇宙飛行士の種類

宇宙飛行士は大きく以下の3タイプに分けられる。

種類役割代表例
パイロット宇宙機の操縦・指揮を担当若田光一(ISS船長経験者)
ミッションスペシャリスト科学実験・船外活動・ロボットアーム操作を担当土井隆雄(日本人初のEVA実施)
民間宇宙飛行士民間ミッションで宇宙に滞在。自費参加または企業スポンサージャレド・アイザックマン(Polaris Dawn船長)

NASAでは2024年にパイロットとミッションスペシャリストの区分を廃止し、全候補者が両方の訓練を受ける方式に移行している。

出典: NASA — Astronaut Selection Program


JAXA宇宙飛行士の応募条件

JAXAは2022年に13年ぶりとなる宇宙飛行士候補者の募集を実施した。この募集では従来の条件が大幅に緩和され、多様なバックグラウンドの人材に門戸が開かれた。

2022年募集の応募資格

項目条件
学歴不問(2022年から変更。従来は自然科学系の大学卒以上が必要だった)
身長149.5cm〜190.5cm
年齢制限なし(ただし実績では選抜時28〜46歳)
国籍日本国籍を有すること
実務経験3年以上の社会人経験(分野不問)
泳力着衣で75mの遠泳、水面下で立ち泳ぎ10分間
視力両眼とも矯正視力1.0以上
英語力英語での実務コミュニケーション能力(TOEICの具体的な基準は非公開)
健康宇宙飛行士の業務に支障のない健康状態

特に注目すべきは学歴不問への変更である。JAXA理事長(当時)の山川宏氏は「文系・理系を問わず、多様な人材を求める」と説明した。実際に応募者4,127名の中には文系出身者も多く含まれていた。

出典: JAXA宇宙飛行士候補者募集 — 募集要項 / JAXA募集FAQ(PDF)


JAXAの選抜プロセス — 4,127名から2名へ

2022年4月から2023年2月にかけて実施された第6期宇宙飛行士候補者選抜は、日本の宇宙開発史上最大規模の選考となった。

選抜の全段階

段階時期内容通過人数
応募受付2021年12月〜2022年3月書類提出4,127名
書類選抜2022年4月〜5月応募書類による審査約2,000名
第0次選抜2022年5月〜6月英語・一般教養・STEM・適性検査(オンライン)約200名
第1次選抜2022年8月〜10月医学検査・体力試験・面接約50名
第2次選抜2022年11月〜12月心理適性検査・リーダーシップ評価約10名
第3次選抜2023年1月〜2月閉鎖環境試験・最終面接2名

合格率は0.05%(4,127名中2名)。NASAの直近の選抜(Group 24: 約8,000名中10名、合格率0.13%)と比較しても極めて厳しい。

第0次選抜の詳細

第0次選抜は、4,127名を約200名に絞り込む最初の関門。オンラインで実施された。

科目内容難易度の目安
一般教養人文科学・社会科学の総合問題国家公務員総合職(大卒程度)相当
STEM自然科学・数学・物理 + 宇宙開発に関する知識同上 + 宇宙工学の基礎
小論文宇宙開発に関するテーマ
適性検査SPI形式の総合適性テストSPI相当

閉鎖環境試験

第3次選抜で実施される閉鎖環境試験は、ISSでの長期滞在を想定した独特の試験である。候補者は筑波宇宙センター内の閉鎖環境設備に数日間閉じ込められ、以下が評価される。

  • ストレス耐性: 外部と遮断された密閉空間での精神的安定性
  • 協調性: 他の候補者との共同作業におけるコミュニケーション能力
  • リーダーシップとフォロワーシップ: 状況に応じた役割の切り替え
  • 問題解決能力: 限られた情報・資源での判断力
  • 睡眠の質: ストレス下での生理的反応

この試験は「宇宙飛行士選抜の核心」とも呼ばれ、能力テストでは測れない「人間力」を見極めるために設計されている。

合格者プロフィール

諏訪 理(すわ まこと) — 選抜時46歳。世界銀行の上級防災専門官として途上国の防災政策に従事。プリンストン大学で博士号取得。JAXA選抜史上最年長の合格者。

米田 あゆ(よねだ あゆ) — 選抜時28歳。日本赤十字社医療センターの外科医。東京大学医学部卒。JAXA史上最年少の候補者。

2名は約2年間の基礎訓練を経て、2024年10月21日に正式に宇宙飛行士に認定された。カナダ宇宙庁(CSA)でのロボティクス訓練も完了している。

出典: JAXA — 宇宙飛行士候補者決定(2023年2月) / JAXA — 宇宙飛行士認定(2024年10月)


NASA宇宙飛行士の応募条件

NASAの宇宙飛行士候補者(Astronaut Candidate = ASCAN)の応募条件は以下の通り。

基本要件

項目条件
国籍米国市民権を有すること
学歴STEM分野(科学・技術・工学・数学)の修士号以上
職歴STEM分野で2年以上の実務経験、またはジェットパイロットとして1,000時間以上の飛行時間
身長157.5cm〜190.5cm
視力遠方矯正視力 20/20(1.0)以上
血圧座位で140/90mmHg以下
身体能力NASAの宇宙飛行士体力テストに合格すること

修士号の代わりに以下も認められる:

  • STEM分野の博士号
  • 医学博士(MD)または歯学博士(DDS/DMD)
  • テストパイロットスクールの修了証明(認定プログラムに限る)

直近の選抜実績: Group 24(2025年9月発表)

応募8,000名超から10名を選抜。NASA史上初めて**女性が過半数(6名)**のクラスとなった。SpaceX Polaris Dawnに搭乗した経験を持つAnna Menonが含まれた点も注目された。

出典: NASA — Astronaut Requirements / NASA — 2025 Astronaut Class


訓練内容 — 選ばれてからが本当の始まり

宇宙飛行士候補者に選ばれてから実際に宇宙に行くまで、通常5年以上を要する。訓練は「基礎訓練」と「ミッション固有訓練」の2段階に分かれる。

基礎訓練(約2年間)

選抜直後に開始される基礎訓練の主な内容は以下の通り。

1. 学術訓練

  • 宇宙工学(軌道力学、推進工学、宇宙機システム)
  • 宇宙医学(微小重力が人体に及ぼす影響、放射線防護)
  • 地球科学(地質学、海洋学、気象学 — ISS上からの地球観測に必要)
  • ISSのシステム全体の構造と運用

2. EVA(船外活動)水中訓練

NASAジョンソン宇宙センター内のNBL(Neutral Buoyancy Laboratory)で実施される。NBLは長さ62m、幅31m、深さ12mの巨大プールで、ISSの実物大モデルが沈められている。

  • 宇宙服(EMU: 重さ約127kg)を着用しての作業訓練
  • 1回のセッションは約6時間
  • 船外活動1時間につき約7時間の水中訓練が必要とされる

3. T-38ジェット機訓練

NASAではT-38タロン超音速ジェット練習機を使用した飛行訓練を実施する。目的は以下の通り。

  • 高速環境下での判断力・状況認識能力の向上
  • コクピット・リソース・マネジメント(CRM)の習得
  • ストレス下でのチェックリスト遵守の習慣化
  • 月15時間以上の飛行が求められる

4. ロボットアーム操作訓練

ISSのロボットアーム「カナダアーム2」(全長17.6m)の操作訓練。物資補給船のキャプチャ(捕獲)やEVAクルーの移動支援に使用される。JAXA飛行士はカナダ宇宙庁(CSA)でも専門訓練を受ける。

5. 日本実験棟「きぼう」操作訓練

JAXA宇宙飛行士は筑波宇宙センター(TKSC)で「きぼう」の操作訓練を受ける。

  • 船内実験室の実験ラック操作
  • 船外実験プラットフォームへの曝露実験装置の取り付け
  • エアロック操作による船内外の物資受け渡し
  • 「きぼう」ロボットアーム(JEMRMS)の操作

6. ロシア語訓練

ISSの公用語は英語とロシア語。ソユーズ宇宙船での緊急手順はロシア語で記載されており、ロシアのモジュール操作にもロシア語が必要。基礎訓練中に実用レベルのロシア語力を習得する。

7. サバイバル訓練

宇宙船が予定外の場所に着陸した場合に備えたサバイバル訓練。

環境場所内容
水上NASAジョンソン宇宙センター付近カプセルからの脱出、救助待機
冬季ロシア・モスクワ郊外の森林極寒環境での生存技術
砂漠米国南西部脱水防止、シェルター構築

ミッション固有訓練(約2年間)

ISS長期滞在ミッションにアサインされると、ミッション固有の訓練が始まる。

  • 搭乗宇宙船(Crew Dragon / Starliner / ソユーズ)の操縦・緊急手順
  • 担当する科学実験の習熟
  • クルー間のチームビルディング
  • 複数の国際拠点での分散訓練(NASA JSC、ロシア星の街、ESAケルン、JAXA筑波)

出典: NASA — Astronaut Training / JAXA — きぼう利用の手引き


日本人宇宙飛行士一覧 — 歴代14名

2026年時点で、宇宙に行った日本人は12名、宇宙飛行士に認定されたが未飛行の者が2名、合計14名である。

名前初飛行年宇宙滞在期間所属・経歴主なミッション
秋山 豊寛19907日21時間TBS記者ソユーズTM-11(日本人初の宇宙飛行)
毛利 衛199219日4時間化学者・理学博士STS-47(スペースラブ-J)、STS-99
向井 千秋199423日15時間心臓外科医STS-65(日本人女性初)、STS-95
若田 光一1996347日8時間航空エンジニアSTS-72、ISS長期滞在(Exp.18/19/38/39)、ISS船長
土井 隆雄199731日10時間航空宇宙工学博士STS-87(日本人初のEVA)、STS-123
野口 聡一2005344日9時間航空エンジニアSTS-114、ソユーズTMA-17、Crew-1
星出 彰彦2008約340日航空エンジニアSTS-124、Crew-2(ISS船長)
山崎 直子201015日2時間航空エンジニアSTS-131
古川 聡2011167日6時間外科医ソユーズTMA-02M、Crew-7
油井 亀美也2015141日16時間航空自衛隊パイロットソユーズTMA-17M、Crew-11
大西 卓哉2016115日2時間ANAパイロットソユーズMS-01(2025年にISS船長就任)
金井 宣茂2017168日5時間海上自衛隊医官ソユーズMS-07
諏訪 理未飛行世界銀行防災専門官2024年認定
米田 あゆ未飛行外科医2024年認定(JAXA史上最年少)

日本人飛行士の経歴を見ると、医師(向井・古川・金井・米田)、航空関連エンジニア(若田・野口・星出・山崎・大西)、軍人(油井)、研究者(毛利・土井・諏訪)、ジャーナリスト(秋山)と多様な背景がある。

出典: JAXA — 宇宙飛行士紹介 / 各飛行士のJAXA公式プロフィール


年収・待遇

JAXA宇宙飛行士の給与

JAXA宇宙飛行士はJAXA職員として雇用される。JAXAは国立研究開発法人であり、給与体系は国家公務員に準じている。

項目内容
給与体系JAXA職員給与規程に基づく年俸制
推定年収800万〜1,000万円(役職・経験年数による)
手当海外訓練手当、危険手当(宇宙滞在中)
福利厚生社会保険、退職金制度あり

JAXAの有価証券報告書(独立行政法人版)によれば、職員の平均年収は約890万円(2024年度)。宇宙飛行士は専門職として一般職員よりやや高い水準と推定される。

なお、民間企業から転職して宇宙飛行士になった場合、年収が下がるケースもある。諏訪理氏は世界銀行から、米田あゆ氏は医師からの転身であり、給与面では必ずしも有利とは限らない。

NASA宇宙飛行士の給与

NASAの宇宙飛行士は連邦公務員(GS-13〜GS-15)として雇用される。

グレード年俸(2025年)対象
GS-13約$105,000〜$137,000(約1,575万〜2,055万円)候補者・新人飛行士
GS-14約$124,000〜$161,000(約1,860万〜2,415万円)経験を積んだ飛行士
GS-15約$146,000〜$191,000(約2,190万〜2,865万円)ベテラン・管理職

※1ドル=150円で換算

出典: NASA — Astronaut FAQs / OPM — GS Pay Scale 2025


民間宇宙飛行士への道

国家機関の宇宙飛行士にならなくても、宇宙に行く方法は増えている。2026年時点で現実的な選択肢は以下の通り。

SpaceX Crew Dragon

  • 費用: 約5,500万〜7,200万ドル(約82億〜108億円)
  • 高度: 低軌道(400km〜1,400km)
  • 滞在期間: 数日〜数週間
  • 実績: Inspiration4(2021年)、Polaris Dawn(2024年)など民間ミッション複数回実施
  • 参加方法: Axiom SpaceやSpaceXとの直接契約。個人での購入は現実的にはスポンサーや資産家に限られる

Axiom Space(ISS滞在)

  • 費用: 約5,500万ドル(約82億円)
  • 滞在先: ISS
  • 滞在期間: 10〜18日間
  • 訓練: NASAジョンソン宇宙センターで約6ヶ月間
  • 実績: Ax-1(2022年)、Ax-2(2023年)、Ax-3(2024年)、Ax-4(2026年予定)

Blue Origin New Shepard

  • 費用: 推定20万〜30万ドル(約3,000万〜4,500万円)
  • 高度: カーマンライン超え(100km以上)
  • 体験時間: 約11分(うち無重力約3〜4分)
  • 現状: 2024年のミッション失敗後、2026年から少なくとも2年間の運航停止中

気球型宇宙旅行

  • 費用: 750万〜2,400万円
  • 高度: 25〜35km(成層圏)
  • 特徴: ロケットを使わないため、激しい加速や訓練が不要。高齢者や身体に制限のある人でも参加可能
  • 主な事業者: 岩谷技研(日本)、World View(米国)
  • 詳細: 気球で宇宙旅行 — 岩谷技研・World View比較

民間飛行士に求められるもの

現時点では、民間宇宙飛行士に共通する最低要件は以下の通り。

  1. 健康であること — 基本的な航空身体検査をクリアできる健康状態
  2. 訓練を完了できること — 数日〜数ヶ月の事前訓練に参加できる時間と体力
  3. 費用を負担できること — 自費またはスポンサーによる資金確保
  4. 英語力 — ミッション中のコミュニケーションは英語が基本

出典: SpaceX — Human Spaceflight / Axiom Space — Missions


FAQ — よくある質問

Q1. 宇宙飛行士に年齢制限はある?

JAXAとNASAには公式の年齢制限はない。ただし実績を見ると、JAXAの2022年選抜では最年少28歳(米田あゆ)、最年長46歳(諏訪理)。NASAの選抜合格者の平均年齢は約34歳。現実的には30代〜40代前半が中心である。

なお、ESAは2022年の選抜で「応募時50歳未満」という年齢制限を設けている。

Q2. 文系でも宇宙飛行士になれる?

JAXAの2022年募集では学歴不問となり、文系出身者も応募可能になった。ただし、NASAとESAは依然としてSTEM分野の修士号以上を求めている。

JAXAの場合でも、0次試験にはSTEM科目(自然科学・数学・物理)が含まれるため、理系的な知識は必要。文系出身で合格するには、独学でSTEM分野の基礎を身につける努力が不可欠である。

Q3. 体力テストはどの程度の難易度?

JAXAの体力試験の詳細は非公開だが、報道や合格者の証言から以下が知られている。

  • 泳力: 着衣で75m遠泳、立ち泳ぎ10分間
  • 持久力: 一般的な体力テスト(シャトルランや踏み台昇降など)
  • 視力: 矯正視力1.0以上(レーシック手術歴があっても応募可能)

トップアスリートレベルの体力は求められないが、「普通に健康で、水泳ができる」ことは最低条件。

Q4. 宇宙飛行士選抜に何度も挑戦できる?

可能である。NASAのGroup 23(2021年選抜)では、複数回応募の末に合格した候補者が含まれている。JAXAも回数制限は設けていない。ただし、JAXAの選抜は不定期(前回は2009年、その次は2022年と13年空いた)であり、機会自体が限られる。

Q5. 宇宙飛行士を辞めた後のキャリアは?

退役した宇宙飛行士のセカンドキャリアは多岐にわたる。

  • 教育・研究: 毛利衛(日本科学未来館初代館長)、向井千秋(東京理科大学副学長)
  • 民間企業: 野口聡一(退職後、民間宇宙関連の活動)
  • 行政: 山崎直子(内閣府宇宙政策委員会委員)
  • 国際機関: 若田光一(JAXA理事)

宇宙飛行士としての経験は、科学コミュニケーション、教育、政策立案、民間宇宙ビジネスなど幅広い分野で活かされている。


参考とした資料


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