ISSでの1日のスケジュール
国際宇宙ステーション(ISS)は地球を約90分で1周する。つまり、1日に16回の日の出と日没を経験する。そんな環境で、宇宙飛行士たちはどのように暮らしているのだろうか。
ISSの1日はグリニッジ標準時(GMT)を基準に管理されている。日本時間では+9時間のずれがある。
| 時刻(GMT) | 日本時間 | 活動 |
|---|---|---|
| 6:00 | 15:00 | 起床・身支度 |
| 6:30 | 15:30 | 朝食 |
| 7:30 | 16:30 | 朝のミーティング(地上管制との通信) |
| 8:00 | 17:00 | 科学実験・メンテナンス作業 |
| 12:30 | 21:30 | 昼食 |
| 13:30 | 22:30 | 科学実験・メンテナンス作業(午後) |
| 17:30〜18:30 | 翌2:30〜3:30 | 作業終了 |
| 18:30 | 翌3:30 | 運動(2.5時間枠のうち後半) |
| 20:00 | 翌5:00 | 夕食・自由時間 |
| 21:30 | 翌6:30 | 就寝 |
基本的に月曜〜金曜が勤務日で、土曜・日曜は休養日だ。ただし緊急のメンテナンスや軌道修正が必要な場合は休日でも対応する。
睡眠 — 無重力でどう眠る?
寝袋と個室
ISSでの睡眠は、壁に固定された寝袋の中で行う。無重力空間では「横になる」という概念がないため、寝袋を壁に取り付けて体を固定する。各クルーには「クルー・クォーター」と呼ばれる電話ボックスほどの小さな個室が割り当てられている。
個室には換気ファンが設置されている。無重力では空気が自然対流しないため、ファンがないと自分が吐いた二酸化炭素が顔の周囲に滞留し、頭痛や酸素不足を引き起こすからだ。
睡眠の質
宇宙飛行士の睡眠時間は約6〜8.5時間。しかし、90分ごとの日の出、機器のノイズ、微小重力への適応ストレスなどから、地上に比べて睡眠の質は低下しやすい。一部のクルーは必要に応じて睡眠薬を使用することもある。
食事 — 宇宙食の進化
宇宙食の種類
ISSの食事は大きく以下のカテゴリーに分かれる。
- フリーズドライ食品 — 水を加えて戻す。軽量で保存が効く
- 加熱殺菌食品(レトルト) — そのまま食べられる。カレーやシチューなど
- 照射食品 — 放射線で殺菌処理されたステーキやスモークターキーなど
- 自然形態食品 — ナッツ、クッキー、トルティーヤなど
- フレッシュフード — 補給船で届く新鮮な果物や野菜(到着直後の楽しみ)
パンはNGだ。パンくずが無重力で飛び散り、機器に入り込んだり、目や鼻に入る危険があるため、代わりにトルティーヤが主食の一つとなっている。
味覚の変化
微小重力環境では体液が上半身に移動し、鼻づまりに似た状態になる。そのため味覚が鈍り、宇宙飛行士は辛いソースやワサビなど刺激の強い調味料を好む傾向がある。
1日の摂取カロリー
NASAの基準では、宇宙飛行士の1日の摂取カロリーは約2,500〜3,000kcal。運動量が多い分、地上の一般的な成人よりもやや多めに設定されている。
アルコール類はISSに持ち込めない。
運動 — 骨と筋肉を守る2時間
微小重力環境では、1か月あたり骨密度が約1〜2%、筋肉量が約5%減少する。これは地上の高齢者が1年かけて失う量に匹敵する。この問題に対処するため、ISSクルーは1日約2.5時間の運動が義務づけられている。
主な運動機器
| 機器 | 目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| ARED(改良型抵抗運動装置) | 筋力トレーニング | 真空シリンダーを使った疑似ウェイトトレーニング。デッドリフト、スクワット、ベンチプレスなどが可能 |
| CEVIS(サイクルエルゴメーター) | 有酸素運動 | 自転車型エクササイズマシン。体を固定して漕ぐ |
| COLBERT / T2(トレッドミル) | 有酸素運動 | ハーネスで体を押さえつけてランニング。体重の約70〜80%の負荷をかける |
運動中のデータ(心拍数、血圧、酸素消費量など)は地上の医療チームにリアルタイムで送信される。
科学実験 — ISSの本業
ISSは「微小重力実験室」としての役割が本業だ。クルーの勤務時間の大部分は科学実験とメンテナンスに充てられる。
主な実験分野
- 生命科学 — 微小重力での細胞培養、タンパク質結晶生成、筋萎縮・骨粗鬆症の研究
- 物理科学 — 燃焼実験、流体物理、コロイド科学
- 地球観測 — 高解像度カメラによる気象・災害モニタリング
- 技術実証 — ロボットアーム操作、通信技術、3Dプリンティング
- 材料科学 — 合金・ガラス・光ファイバーの微小重力製造
2024年には、きぼう日本実験棟で生体組織の3Dバイオプリンティング実験が行われ、微小重力環境での臓器模型作成の可能性が検証された。
衛生・トイレ — 水は貴重品
トイレ
ISSのトイレは吸引式だ。無重力では重力で排泄物が落ちないため、空気の流れ(吸引力)を利用する。尿は回収・浄化され、飲料水として再利用される。回収率は約90%以上だ。
シャワーはない
ISSにシャワーはない。体の洗浄は、水を含ませたタオルやノーリンスシャンプーで行う。水は地球からの補給に頼る貴重資源であり、1人あたり1日約3〜4リットルに制限されている。
洗濯もできない
洗濯機もないため、衣類は数日間着用した後に廃棄する。使用済みの衣類は他のゴミとともに補給船に詰め込み、大気圏再突入で焼却処分される。
船外活動(EVA)
船外活動(Extra-Vehicular Activity, EVA)はISSの維持管理に不可欠だが、最もリスクの高い作業でもある。
EVAの準備
EVA当日は、準備だけで約6時間を要する。
- 呼吸する窒素の排出 — 低圧の宇宙服(約0.3気圧)に移行するため、事前にエアロックで純酸素を呼吸し、体内の窒素を排出する(減圧症予防)
- 宇宙服の装着 — EMU(船外機動ユニット)は約127kgの「小さな宇宙船」。生命維持装置、通信装置、推進装置を内蔵
- ツールの準備 — 使用する工具をテザー(命綱)で体に固定
EVAの実施
1回のEVAは通常6〜8時間。宇宙服内の酸素・冷却水・バッテリーの容量が制限時間を決める。ISS運用開始以来、200回以上のEVAが実施されている。
地上との通信
ISSクルーは追跡・データ中継衛星(TDRS)を経由して地上と通信する。電子メール、IP電話、ビデオ通話が利用可能で、家族との定期的な交信も行われる。
また、クルーはSNSに投稿することもある。ISSから撮影した地球の写真は人気が高く、宇宙飛行士のSNSアカウントは多くのフォロワーを集めている。
帰還後の体の変化
長期滞在(6か月程度)から帰還した宇宙飛行士には、以下の変化が報告されている。
- 筋力・骨密度の低下 — リハビリに数週間〜数か月を要する
- 視力の変化 — 頭蓋内圧の上昇による眼球の変形(SANS: 宇宙飛行関連神経眼症候群)
- 起立性低血圧 — 重力に再適応するまで立ちくらみが起きやすい
- 平衡感覚の混乱 — 前庭器官のリハビリが必要
NASAの「Twins Study」では、1年間ISS滞在したスコット・ケリー飛行士と地上にいた双子の兄マーク・ケリーを比較し、遺伝子発現や腸内細菌叢の変化が確認された。
まとめ
ISSでの宇宙飛行士の1日は、綿密にスケジュール管理された約16時間の活動と8時間の睡眠で構成される。地上では当たり前の「シャワーを浴びる」「パンを食べる」「ベッドに横になる」ができない環境で、クルーは科学実験と体力維持に全力を注ぐ。
この過酷な環境での知見は、今後の月面基地や火星有人ミッションの設計に直結する。宇宙飛行士の日常は、人類が地球を離れて暮らすための壮大な実験そのものだ。