船外活動(EVA)とは
**船外活動(EVA: Extravehicular Activity)**とは、宇宙飛行士が宇宙船やステーションの外に出て行う作業のことだ。一般的には「宇宙遊泳(Spacewalk)」と呼ばれる。
ISSの組立・修理、ハッブル宇宙望遠鏡のサービスミッション、月面探査など、宇宙開発の重要な局面でEVAは不可欠な役割を果たしてきた。
EVAの歴史
人類初の宇宙遊泳(1965年)
1965年3月18日、ソ連の宇宙飛行士アレクセイ・レオーノフがボスホート2号から船外に出て、人類初のEVAを実施した。約12分間の船外活動だったが、宇宙服が膨張して船内に戻れなくなるトラブルに見舞われた。レオーノフは宇宙服の空気を一部排出して辛うじて帰還した。
米国初のEVA(1965年)
同年6月3日、NASAのエド・ホワイトがジェミニ4号で米国初のEVAを実施。約23分間の船外活動で、ハンドヘルド推進装置を使って移動した。
アポロ計画の月面EVA(1969〜1972年)
アポロ計画では12人の宇宙飛行士が月面でEVAを行った。アポロ11号のニール・アームストロングとバズ・オルドリンによる初の月面EVAは約2時間31分。アポロ17号では最長の月面EVA(約7時間37分×3回)を記録した。
スペースシャトル時代(1981〜2011年)
シャトル時代にはハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションやISS組立のためのEVAが多数実施された。船外活動用有人機動装置(MMU)を使った「テザーなしの自由飛行」も行われた。
ISS時代(1998年〜現在)
ISS関連のEVAは2026年時点で270回以上を数える。1回あたりの時間は平均6〜7時間で、主に機器の交換・修理、太陽電池パネルの設置、科学実験の設置/回収を行う。
Polaris Dawn — 民間初のEVA(2024年)
2024年9月12日、SpaceXのPolaris Dawnミッションで、民間人として初めてのEVAが実施された。ジャレド・アイザックマン(ミッションコマンダー)とサラ・ギリス(SpaceXエンジニア)が、高度約740kmでSpaceX製EVAスーツを着用して船外活動を行った。
EVAの手順
ISSでのEVAは、以下の手順で実施される。
準備(前日〜当日)
| ステップ | 内容 | 時間 |
|---|---|---|
| 機器チェック | 宇宙服・工具の動作確認 | 前日 |
| プリブリーズ | 低圧酸素環境に順応。減圧症を防止 | 数時間 |
| 宇宙服着用 | EMU(船外活動用宇宙服)の着用 | 約1時間 |
| エアロック減圧 | エアロックの空気を排出 | 約30分 |
実施
- テザー(命綱)の接続: 常に2本以上のテザーでISSに繋がれている
- 作業: 事前にシミュレーションした手順に従い、地上の管制官と常時通信
- 休憩: 宇宙服内の飲料水バッグで水分補給。食事はない
- 平均時間: 6〜7時間(最長記録: 8時間56分)
帰還
- エアロックに戻り、再加圧
- 宇宙服を脱ぎ、機器を点検
- 医学チェック
宇宙服の仕組み
NASA EMU(船外活動用宇宙服)
ISSで使用されるEMU(Extravehicular Mobility Unit)は、人間が宇宙空間で生存するための「1人乗り宇宙船」だ。
| 機能 | 仕組み |
|---|---|
| 気圧維持 | 内部を約29.6 kPa(地球の約1/3)の純酸素で加圧 |
| 温度調節 | 冷却水循環式。宇宙空間では-150〜+120°Cの温度差 |
| 酸素供給 | 約7〜8時間分の酸素を搭載 |
| CO₂除去 | 水酸化リチウムキャニスターで二酸化炭素を吸収 |
| 通信 | 地上管制・他の宇宙飛行士との音声通信 |
| 飲料水 | ヘルメット内部の飲料水バッグ(ストロー付き) |
| 微小デブリ防護 | 多層構造で小さなデブリの貫通を防止 |
| 重量 | 約127kg(地球上。宇宙では無重量) |
| 価格 | 約1,200万ドル/着 |
SpaceX EVAスーツ
Polaris Dawnで使用されたSpaceX製EVAスーツは、従来のNASA EMUとは異なるアプローチだ。
- 軽量: EMUより大幅に軽い
- 柔軟性: 関節部の可動域が広い
- ヘルメット: HUD(ヘッドアップディスプレイ)搭載の可能性
- 制約: 独立した生命維持装置は搭載せず、宇宙船のアンビリカルケーブルで接続
EVAの危険性
微小デブリ
軌道上には微小デブリ(塗料の剥片、砂粒大の金属片)が秒速7km以上で飛行している。宇宙服の多層構造はある程度の防護力を持つが、大きなデブリに対しては無力だ。
減圧症
宇宙服の内圧は地球の大気圧より低いため、急激に低圧環境に移行すると血液中の窒素が気泡化する「減圧症(ベンズ)」が発生する危険がある。これを防ぐために、EVA前に数時間の「プリブリーズ(低圧酸素環境への順応)」を行う。
手袋の損傷
EVA中に最も損傷しやすいのが手袋だ。金属表面の鋭いエッジで手袋が切れると、急速な減圧が発生する可能性がある。ISS EVAでは手袋の定期的な目視検査が義務づけられている。
水の侵入
2013年7月、ESAのルカ・パルミターノがEVA中にヘルメット内に水が浸入するトラブルに遭遇。冷却システムの不具合で水が顔面を覆い、視界と呼吸が困難になった。EVAは緊急中断され、パルミターノは無事帰還したが、「宇宙で溺れかけた」事例として知られる。
日本人宇宙飛行士のEVA
日本人宇宙飛行士もISSでのEVAを経験している。
| 宇宙飛行士 | EVA日 | 内容 |
|---|---|---|
| 土井隆雄 | 1997年11月 | STS-87で日本人初のEVA。船外作業約6時間 |
| 野口聡一 | 2005年8月 | STS-114でシャトルの耐熱タイル修理技術を実証 |
| 星出彰彦 | 2012年9月、11月 | ISS長期滞在中に3回のEVAを実施 |
土井隆雄のEVAは日本の宇宙開発史における重要なマイルストーンだ。以降、日本人宇宙飛行士は定期的にEVAを経験し、ISS運用に貢献している。
EVAの将来 — 月面と火星
アルテミス計画のEVA
アルテミス計画では、月面でのEVAが計画されている。NASAは新型の月面EVAスーツ「xEMU(Exploration Extravehicular Mobility Unit)」の開発をAxiom Spaceに委託した。新スーツはアポロ時代より大幅に可動域が広く、月面での作業効率が向上する。
火星でのEVA
火星でのEVAは、月面とは異なる課題がある。火星の大気(主にCO₂、気圧は地球の0.6%)は宇宙服の設計に影響し、砂嵐による視界不良やダスト付着への対策が必要だ。通信遅延(地球との間に4〜24分)があるため、地上からのリアルタイム支援は期待できず、宇宙飛行士の自律的な判断が求められる。
EVAの記録
| 記録 | 保持者 | 内容 |
|---|---|---|
| 最多EVA | アナトリー・ソロビヨフ | 16回 |
| 最長通算EVA時間 | アナトリー・ソロビヨフ | 82時間22分 |
| 1回の最長EVA | スーザン・ヘルムズ&ジム・ヴォス | 8時間56分 |
| 初の民間EVA | ジャレド・アイザックマン | 2024年9月12日 |
| 最年少EVA | サラ・ギリス | 30歳(Polaris Dawn) |
参考としたサイト
- NASA EVA History
- Space.com SpaceX Polaris Dawn First Private Spacewalk
- Wikipedia Polaris Dawn
- TIME The Historic Significance of the Polaris Dawn Spacewalk